2012年2月9日(木)

大正時代の中国人留学生と、神保町の中華料理店

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 以前読んだ雑誌(東京人2011年11月号)に、神保町界隈には大正以降中国人留学生が大勢住んでいた。当時の中国は清王朝末期で欧米諸国の植民地状態。中国の独立を目指す中国人若者が、東京の神保町に大勢集まっていた。その関係で、中国人が経営する多数の中華料理店ができ現在も残っている。現在は銀座7丁目に移転した維新號も元々神保町にあり、日本が明治維新で成功したことにあやかり、いずれ中国にも維新が訪れることを祈願して名付けた店名である、等々書いてありました。

 都営新宿線「神保町」駅を出たところに歴史案内の看板があり、“大正3年(1914年)中国の留学生が日本国内に進学するのに欠かすことのできない日本語、英語、数学等を専門に学ぶ東亜高等予備学校が設置された。周恩来も大正6年から2年間、この学校に学ぶ”と書いてありました。大学で学ぶ前の中国人・アジア人留学生専門の予備校があったわけです(神田神保町2-20、今の愛全公園のあたり)。東亜高等予備学校は中学人留学生の教育に生涯取り組んだ松本亀次郎氏が創建した学校です。

 明治大学HPの「大学史散歩道」では下記説明が載っていました。以下抜粋させて頂きます。

・日清戦争で惨敗した衝撃から、中国(当時は清朝)では体制改革を求める気運が急速に広まる。日本への留学によって、日本が摂取した西洋の諸制度を効率よく学ぼうという動きが起こる。

・1896年に最初の中国人留学生13人が来日し、以後、中国人留学生が続々と来日。その後、日本留学はブームとなり、1905年ごろに1万人を超え、ピークを迎える。この年、中国で1300年続いた官吏登用試験、科挙が廃止され、官僚となって出世を目指す若者たちは、日本留学を科挙の代わりととらえて、将来を賭けて渡航。

・神田には私立大学が集中しており、なかでも明治大学は数多く留学生を受け入れていた。近くには東京高等商業学校(一ツ橋、のちの一橋大学)、東京帝国大学(本郷)、陸軍士官学校(市ヶ谷)などもあり、留学生たちは所属学校の近くに下宿したので、神田一帯に留学生が集中した(溥儀の弟・溥傑は、陸軍士官学校で学んでいます)。

・留学生ブームは、新たな人材を大量に生み出すとともに、留学生と孫文ら亡命革命家との接触により、清朝打倒の革命拠点を生み出した。

 http://www.meiji.ac.jp/koho/desukara/sanpomichi/2010/105-fd.html

 なるほど、辛亥革命の下地の一端は神保町で培われていたのか!孫文(ソンブン、スンウェン)は日清戦争直後の1987年に日本に亡命してきます。孫文の日本でのパトロンが、貿易で莫大な富を築いた長崎の梅屋庄吉です。

 神保町界隈を散歩してみると、あります、あります、たくさんの中華料理店が。靖国通り沿いの「新世界菜飯」(神保町駅A3出口すぐ、内神田2丁目2-15)。新世界菜飯は以前取引先に連れて行ってもらったことがありますが、2月の寒い日(土曜日15時くらい)でも大勢のお客さんが出たり入ったりしていました。

         新世界菜飯

 さらに九段方向に50m行くと、「威亨酒店(かんきょうしゅてん)」。この時期、両店とも“上海蟹“の垂れ幕が大きく出ています。威亨酒店のお店は、柳の木と一体になった中華風の風情のある建物です。お店の歴史を記した看板には、中国革命時の大作家・魯迅とのかかわりが出ていました。現在の建物は、1981年に魯迅の生誕100年を記念して建てられたものだそうです。

        威亨酒店とシンボルの柳の木

       威亨酒店と魯迅の関係の看板

 靖国通り一本裏には、周恩来氏が足しげく通ったと言われている「漢陽楼(明治44年創業)」があります。新世界菜飯の靖国通り向かいには、「上海朝市」があります。靖国通りを九段方向に250m行くと、「源来酒家」と「王家私菜」が並んでいます。すずらん通りには「揚子江菜館(明治39年創業)」があり、5階建てのビルで1棟全部をレストランで営業しています。

           1棟全部が揚子江菜館

 中華料理と言うとすぐ横浜中華街を連想してしまいますが、本場の中国料理店が多数集まる町がこんな身近にあったとは。神保町は、清朝末期のエリート中国人留学生が集結した町として、もっと売り出すべきでしょう。

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