2012年2月16日(木)

日本農業のデータ

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 農林水産省OBの山下仁氏の著書「農協の陰謀(宝島新書)」に、日本農業に関する興味深いデータが載っていたのでまとめてみます。日本農業は弱くて保護しなければならないと全農、農林水産省は喧伝しますが、補助金で一番利益を得ているのは彼らのようです。

・2005年の農業従事者は335万人。これが2010年には261万人となり、22%減少した。

・日本国内では253万戸の農家数(人数ではなく戸数)。この内売上高1000万円以上は、わずか14万戸(5.5%相当)。この14万戸の農家が、農業生産額全体の60%を生産している(残り90%以上のかなりの農家が、趣味的に農業を行っている兼業農家)。

・1995年に米の買い入れ制度(食糧管理制度)が廃止される。米価を維持するために減反制度を進めた。今では減反面積が水田面積の40%に達する。2008年は減反補助金1600億円に補正予算で500億円上積みし、減反を10万ha追加し合計110万haの減反田となった。

・2000年以降でも米価は3割も下落。

・大都市周辺の千葉、埼玉、福島の米農家は減反に参加しないでJAを通さないで自由に米を販売するようになった。これによりJAの米集荷シェアは著しく低下。JAグループ全体では全体の50%、JA全農では40%まで取扱シェアを落としている。

・JAの米販売額は、1985年には2兆6000億円あった。これが2005年には1兆円と60%以上も減少。2007年にはとうとう1兆円を切る(扱いシェアの減少と金額低下のダブルパンチ)。

・今まで言うことを聞かないと全農、農協が圧力を掛けていた主業農家が、益々力を持つようになり自立してきた。肥料、農薬、農機具が高いと不満を持っていた主業農家が次々離反。どの農家もみな平等主義から、2004年にはとうとう大口購入者には優遇割引を行うようになった。

・現在米の関税は778%で保護されている。OECD算定による日本の農業保護額は4兆円と言われている。

・カリフォルニアの飛行機で種蒔きする粗放農業より、日本の米作りは3割も反収が低い(作っているのが長粒米とジャポニカ米の違いはあると思いますが)

・国産小麦の生産量は14%程度のシェア。残り86%が輸入小麦で、輸入品に高額の関税を掛けることで結果消費者は小麦を高く買わされている(日本では既に米の消費量を小麦が抜き、実質的主食は小麦となっている)。

・減反政策は、農林水産省が従来主体となって実施していたが、現在は農協に実施させている。農協以外で米を販売しているところは、農協の言うことを聞かない。今後人口減、高齢化進行により米消費は減少するので、ますます米価は低下して行く。

・米の全世界の総生産量は4.5億トンで、このうち輸出に回る量は3000万トン(全生産量の7%程度)。日本の米生産量は850万トン(主食米の他、加工米、飼料米等を含めて)。米国の一大米産地カリフォルニア州の米生産量は200万トン。このほとんどが小麦、トウモロコシと併用が効く大型の刈入れ機(コンバイン)が使える長粒米。手間がかかり手持ちのコンバインが使えないジャポニカ米の生産量は少ない。

・米の関税額は、341円/kgであり、60kg(一俵)だと20,460円。

・中国から安い米が入ってきて大変という声があるが心配は要らない。コメ不足と騒がれた10年前は60kg3000円(50円/kg)だった中国産が、2010年では60kg10,000円(170円/kg)と3倍以上も上昇した。一方国内米は10年間で35%も低下し、60kgあたり13,000円。中国産と内外価格差を比べて1.3倍でしかない。

・減反を止めて主業米生産者が大規模に効率的に米作を行えば、より国内米価は下がり、より多く輸出に回せる。趣味で米を作っている兼業農家にまで補償する所得補償制度ではなく、主業農家に対してのみ行う直接支払(所得補償)をするのが正しい政策。

・酪農家の戸数は50年前には40万戸あったが、現在は2万戸まで減少した。但し生乳生産は200万トンから800万トンまで拡大している(農家戸数の減少イコール生産量の減少にはならない)。

・飼料米と主食米の価格差は10倍ある。飼料米生産は減反とみなし、8万円/反(10a)の補助金を交付している。

・1haあたり農薬使用量は日本は米国の8倍。窒素使用量も1haあたりでは世界平均の2倍を投入している。農薬や化学肥料の投入は規模の小さい農家の方が多い。プロ農家に任せて、農薬や化学肥料の使用を控えた安全、安心の農産物を作った方が良い(日本の農業はちまた言われるほど安全とは言い切れない)。

・中国ではかつてほとんど生産されていなかったジャポニカ米は、現在生産量の30%程度を占めるようになった(食べて美味しいため)。

・上海のスーパーでは、中国産ジャポニカ米は150円/kgで売られている。片や日本米は1300円/kgで売られている。中国で販売される日本米の価格は異常に高い。これは日本米を安く売ると中国産の高級米が売れなくなるからだといわれている。香港では商社からの卸売価格は、日本産コシヒカリ380円/kg、カリフォルニア産コシヒカリ240円/kg、中国産コシヒカリ150円/kg、中国産ジャポニカ米100円/kg。これが本当の市場の価格だと思う。

 米の生産を大規模生産者に集中させ効率的に行えば、日本はジャポニカ米を輸出もできるし、米農家(但し兼業ではなく主業農家)も今よりもっと潤うと思います。全農も感情的にTPP反対を煽ぎたてないで、何がどう駄目なのかデータで我々を説得して欲しいものです。

追記)1960年と2008年でどれだけ日本国内の農業生産物シェアが変わったかの対比がありました。米は今や野菜、畜産よりも生産額では下になり、全体の22%を占めるにすぎません。

        1960年     2008年

・米       61%   →   22%

・野菜      3%   →   29%

・果実      5%   →   29%

・畜産      8%   →   25%

・その他    23%   →   14% (小麦、大豆、雑穀、花卉等)

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