2012年10月5日(金)

寺島実郎氏の講演 シェールガスが採掘されると米国は中東から手を引く

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

私の会社が所属する全日本不動産協会の講習会で、9月の講師の先生は日本総研理事長の寺島実郎氏でした。テレビだとちょっと強面ですが話しも分かりやすく、約1時間の説明で世界情勢、世界のエネルギー事情、日本がいかに無防備かを最後までしっかり聞かせてくれました。その要旨を書いてみます。

・現在イランの強硬姿勢で世界中が緊張している。石油もそうだが、液化天然ガス(LNG、Liquefied Natural Gas)の約30%が中東のホルムズ海峡を通っている。6か月分の備蓄がある石油と違い、液化天然ガスはほとんど備蓄が無い。ホルムズ海峡でもし何かの事態が起これば、液化天然ガスに頼っている日本の電力は直ちにパニック状態になってしまう。

・中東ではカタールの1人当たりGNPは、12.5万ドル(日本の約3倍)。カタールには他国の人も多数いるので、これをカタール人だけで計算すると20万ドルとなり、もの凄い金持ち国家になる。一方、エジプト、ソマリアなどの非産油国はお金がなく、政情が不安定で、何時液状化してもおかしくない。

・エジプトなどがこういう状態になってしまった一番の原因は、アメリカの国防力の弱体化。9.11のテロの後に、アメリカは約3兆ドルの戦費を使って中東地域に関わった。今はへとへとに疲れて、アメリカのプレゼンスが落ちている状態。日本は元々アメリカの強いプレゼンスの傘下で中東のシーレーンを確保し、安全に石油、液化天然ガスを運ぶことができたが、今やこれが危なくなってきている。

・イランもアメリカのアフガニスタン侵攻までは許したが、イラクにまで武力で突っ込んだことで、反米感情が強くなった。イランが極右化することで、今度はイスラエルが反応。ユダヤ人はアメリカの3%しか人口がいないが、一流大学の卒業生のかなりをユダヤ人が占める。ハーバード大学は15%、コーネル大学は30%くらい。これら名門大学を出たユダヤ人が、アメリカ社会の中枢を占め、政治に経済に強い影響力を持っている。

・イスラエルの核保有は秘密協定で、本当は保有しているのに持っていないことになっている。アメリカとアラブ社会の間を取り持っていたのがエジプトのムバラク大統領だったが、昨年失脚しエジプト自体が制御できない状況。イランの力は決して侮れず、8月にも世界から120か国を集めて世界会議を開いている。

・このように中東の政治の液状化により、中東の半円が相当きな臭くなっている。昨年までの状況はアメリカ無き中東になりつつあったのが、今年は覇権無き中東になっている。

・アメリカはシェールガス、シェールオイル革命により、中東にエネルギーを依存しなくても良くなってきた。3年前にベンチャー企業が採掘が難しいとされていた頁岩(けつがん)に溜まっている天然ガスを低コストで採掘する技術を確立した。この採掘技術を石油メジャーがベンチャー企業から買い、現在の大々的な生産につながった。現在は、自国生産で40%、北海ルートで40%のエネルギーを確保。中東のホルムズ海峡を通るタンカーは、20%程度まで落ちてきている。今後自国の石油、天然ガスの生産が上がれば、益々アメリカにとって中東の石油を守る意味あいが減少して行く。ホルムズ海峡を通る日本や中国の他国のタンカーを守っていることに、アメリカ政府もしびれを切らし始めている。

・日本の電力が原子力不稼働で持っているのは、全部天然ガス発電でまかなっているから。液化天然ガスだけで、昨年度は3兆円輸入量が増えた。日本の年間食料輸入額が6兆円であり、液化天然ガスは年間7兆円の輸入額になってしまった。

・アメリカでは天然ガスの価格は、3年前が12.5ドルだったのが、現在は2.5ドルまで下落。日本はこれを平均17ドルで各国から購入している。アメリカから天然ガスを輸入できるかと言うと、FTAを締結していないのでアメリカの天然ガスを購入できない。日本の化学メーカーは先手を打って、日本からアメリカに工場を移転する動きを加速している。

・日本の総合商社は、シェールガスの権益に合計約5000億円の投資を行っているが、担当者も青ざめ始めている。いくら何でも2.5ドルでは安すぎて、採算に合わなくなっているため。

・シェールガスに続き、シェールオイルの生産が続々と始まり、アメリカの原油生産量は日量600万バレルになった。現在原油生産1位はロシアで、日量1000万バレル。2位はサウジアラビアで、日量900万バレル。年々増加する原油生産により、北海油田が出始めた時の英国のような高揚感が、アメリカ社会に出てきている。ペリー来航の6年後の1859年にアメリカのペンシルバニアで油田が発掘。これを機に自動車産業が勃興し、アメリカの繁栄が始まった。この時の再来と言う感じだ。

・アメリカは今まで呪われたように中東の外交政策で失敗を積み重ねてしまった。シェールガス、シェールオイルで中東に依存しなくなると、今までの様に中東にコミットする必要が無い。今後は中東からアジアシフトが進むだろう。

・シェールガスの大増産により影響を受けているのが、旧来の天然ガス生産国。特にロシアはその影響を大きく受けており、ガスの安定的需要国、特に日本には天然ガスを輸出したい。

石油は中東から来るのが当たり前、液化天然ガスもどこからでも仕入れられるとのんびり構えていると、イランの情勢次第では強烈なカウンターパンチを浴びることになりそうです。そのためにもロシアとはよりお近づきになる必要がありそうです。

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