2013年1月18日(金)

インドの英雄チャンドラボースの骨が眠る杉並区の蓮光寺

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

商社マンのS君からインド駐在時の話を聞いた折、インドの歴史を織り交ぜながら、如何に複雑な国かを説明してもらいました。その折、何度か出てきた名前が”チャンドラボース”。えっ、誰?しっかり近代史を学ばなかった私には、初耳の名前でした。

家に帰りネットで調べると、インドが第二次大戦後イギリスから独立する時に活躍した軍人、政治家となっています。日本敗戦後すぐの1945年8月18日に48歳で台湾にて死去。インドの国会議事堂の正面にはチャンドラ・ボース、右にはガンディー、左にはジャワハルラール・ネルーの肖像画が掲げられているそうです。インドの国会の正面にまで飾られる英雄だったということが分かりました。彼の足跡を見てみると

・1897年インドのベンガル州カタク(現オリッサ州)に生まれる。イギリスのケンブリッジ大学に留学している名家の生まれ。1921年にガンディーが主導する反英国非協力運動に身を投じる。1930年にカルカッタ市長に選出されたが、イギリスの植民地政府の手により免職された。

・第二次大戦が始まると、ドイツのヒットラー、イタリアのムッソリーニに一緒に戦う旨申し出るが、インドの独立は150年早いと一蹴される。

・その後スターリンに一緒に戦おうとアプローチ。スターリンとしては、インドは独立ではなくあくまでソビエトの植民地的に持っていきたい意向があったので、この申し出は断る。

・唯一、日本の東条英機がチャンドラ氏の申し出を受諾。イギリスと一緒に戦うためにインパール作戦を敢行。結局この無謀な作戦のために、約4万人の日本人兵士とインド人兵士約2千人が亡くなった。

・第二次大戦後、インドをまだ植民地として支配していたイギリスは、チャンドラ氏と一緒に戦っていた兵士たちを戦犯として死刑にすることを決めた。これに反発したガンジー、ネールたちが抗議し、死刑から懲役15年に減刑。なおも猛烈に抗議すると、兵士たちは無罪となった。

・戦後日本で戦犯を裁く極東裁判が行われると、各国の裁判官たちは死刑などの有罪を宣告したが、唯一インドのパール判事は日本のために戦った兵士たちは無罪であると主張した。

・チャンドラ氏が台湾で亡くなった後は、台湾のお寺本願寺で葬儀が行われた。遺骨は日本に運ばれ、杉並区の日蓮宗「蓮光寺」に埋葬され、現在も蓮光寺に墓がある。昭和50年にチャンドラ氏の銅像が建てられ、現在もインドから多数の方が参詣に訪れる。

インドの英雄チャンドラ氏の墓がすぐ身近の杉並区にあったのか。昨年末に杉並区役所に調査で行った帰り、蓮光寺に寄ってみました。丸の内線「東高円寺」駅から徒歩8分くらい、蚕糸の森公園を抜ければ直ぐです。さほど大きくない、どちらかと言えばこじんまりとした日蓮宗のお寺です。

ちょうど庭にいらっしゃったお寺の関係者の方に、大勢のインド人の方が訪れるのか聞いてみました。チャンドラ氏の銅像を見に来るインド人はいるとは言うものの、列をなしてと言うほどでもないようでした。インド人の死んだ後の宗教観が日本と違うらしく、お墓に対してすごい何かを感じないようです(遺灰を川に流したり、散骨することも多い)。それでも以前、ネルー首相、インディラ・ガンジー首相が来日した時に、蓮光寺まで訪問されたと言うことでした。

日本が中国ではなくインドと今後関係を深めていくとすれば、こんな良い話はありません。インドと日本の友好の証として大々的にこの史実を広めていき、できれば蓮光寺のそばに記念館くらい作っても良いのではないでしょうか。

追記1)もう一人、インド独立運動で戦った方にラス・ビハーリー・ボース氏がいます。イギリス提督の暗殺事件関与や、ラホール蜂起の首謀者と言うことで国際手配され、1914年に日本へ亡命した人物です。ビハーリー・ボース氏は、新宿の中村屋に匿われ、中村屋の相馬氏のお嬢さんと恋に落ちます。そして結婚し婿になり、中村屋の取締役にもなります。日本に本格的インドカレーを伝授し、その伝統は銀座のナイルレストランに生きています。

ウィキペディアには、”ビハーリー・ボースとチャンドラ・ボースは、日本政府の援助を受けてシンガポールに自由インド仮政府を樹立し、首班となったチャンドラ・ボースとともに指導者の1人となり、日本政府の協力を受けてイギリスとの闘争と、インド国民会議派をはじめとするインド国内の独立勢力との提携を模索した。”と書いてあります。ビハーリー・ボース氏は、終戦前の1945年1月に日本で死去し、その後日本国から勲章が授与されています。

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