2013年7月20日(土)
中国の過剰生産設備
今までがむしゃらに経済成長を遂げてきた中国。しかし最近流れてくる情報を見ると、これから相当の景気後退(リセッション)は避けられない状況と思われます。
一番やばい要因は、過剰生産設備だと思います。大前研一さんのメルマガで、製鉄業界の設備が書かれていました。日本の製鉄業界のピーク時が1.5億トン。これが現在は1億トンまで設備を縮小しています。大前さんのメルマガでは、「中国の2012年製鉄生産量は7億2000万トンで、鉄鋼会社の数が100社もある(日経記事では800社との表現もある)。これが将来は集約が進み、半分以下のの3億トンを切ってくると予測される。」この予測が現実なら、日本の製鉄生産設備全体の4倍以上も廃棄しなければならないということです。
中国金属学会の理事長徐匡迪氏のインタビュー記事では、“製鉄所にはまだ拡張する考えがあり、2013年にすでに着工したプロジェクトは510件、建設中の投資規模は2699億元(約4兆3785億円)に達した。これらの建設中、設計中、企画中のプロジェクトがすべて稼動されれば、中国の製鉄能力は9億1500万トンに、製鋼能力は10億2000万トンに膨らむ。”と書いてあります。各市ごとに製鉄所がある中国では、効率の悪い小規模製鉄工場が多くあるのが特徴です(コスト競争力が無い)。
経済協力開発機構の調査では、過剰粗鋼生産能力は5億4200万トンと推計されています。年間の世界生産量が約15億トンで生産量の3分の1が余剰となり、この大半が中国国内設備と考えられます。
なぜこれほど製鉄工場ができてしまうのか。これは中国共産党の幹部が地方市政府の経営を任され、実績を出すことで共産党の出世階段を上る仕組みがあるからです。今年は経済成長10%を目指すと北京中央政府が決めれば、地方政府はがむしゃらにその目標を達成しようとする。製鉄工場が経済成長を生むと思えば、どんどん誘致したり国営企業を作ったりして、あっという間に工場を作ってきました。
地方市を経済成長させようと言う建前はもちろんあるのでしょうけど、工場を作れば、当然のように市長、市政府幹部、中堅から末端の役人にまで金員(賄賂)が配られるはずです。軍隊に入隊するのにも大体100万円の賄賂が必要(大連の知人の話し)と言う事ですから、工場一つ作れば莫大な裏金が流れる。結果、需給とは関係なく、経済成長という大義名分のもと、とにかく工場を作ることになります。そして役人達はお金を貯め、将来に備えて米国に預金をしておく。
中国の需要無視の業界は、他にも太陽光発電パネル、自動車産業、造船業、携帯電話、薄型テレビ、家庭用電気製品、大型ブルドーザー、セメント、化学製品等々。風力発電も中国全土で展開していますが、3割以上が稼働していないとも言われています。
フィナンシャルタイムズの記事では、「自動車業界は、現在の生産能力は約2000万台あるのに、500万台(25%)が過剰設備となっている。2012年度はセメント施設の稼働率が3分の2に留まった。イナゴに例えて、大量に同種の工場を作って他国の工場を潰す。その後も増殖を続け、今度は共食を始める。」と書いてありました。
英国エコノミストの記事では、「中国最大の民間造船会社、中国熔盛(ロンシェン)も大変なことになっている。今年に入って新規受注が急減し、人員解雇と給料の支払い遅延が発生。その他の中国の造船所も船主の需要が減っても生産能力を拡大し続けている。中国の造船業界団体は、恐らく加盟企業の3分の1程度が現在、倒産の危機に直面していると推定される。」と書いてあります。
アパレル企業の工場では、ヨーロッパ向け輸出が滞ってきて、1年分の在庫が積み上がっていると言う記事もありました。2012年11月のチャイナネットで「四半期報告によれば、中国のA株に上場する22社のアパレル企業の第3四半期の在庫が382億元(約5000億円)に達した。三槍集団常務副総経理の曹春祥氏は、“アパレル企業の在庫は3年かかっても消化しきれない”と分析する。」と書かれています。
不動産業界では、大規模ニュータウンも入居者がほとんどいなくて、鬼城(ゴーストタウン)と呼ばれる開発もいくつもあります。不動産バブルの崩壊により「ゴーストタウン」と化した中国内の12都市について、時代週報の記事があります。
「ゴーストタウンに選ばれた12都市は、オルドス市カンバシ新区、フフホト市清水河県、バヤンノール市、エレンホト市(以上、内モンゴル自治区)、鄭州市鄭東新区、鶴壁市、信陽市(以上、河南省)、営口市(遼寧省)、常州市、鎮江市丹徒区(同江蘇省)、十堰市(湖北省)、昆明市呈貢区(雲南省)。12都市のうち4都市が内モンゴル自治区、3都市が河南省にあり、この2行政区に特に集中していることが明らかとなった。」
オルドス市では、石炭採掘で1人当たり収入は上海に次ぐ高さの町です。この旧市街から南に20キロの荒野に突如、高層ビル街を開発。人口100万都市を目指したのが「カンバシ新区」ですが、最近の統計でも入居者は2万8600人に過ぎないとのこと。完成戸数が定かではありませんが、10万人分の供給が既にあるとの記事もあるので、3万戸くらいは完成しているのでしょう。最近では資金難により、建設途中の建物が未完成のまま放置されており、問題となっています。
日本でもバブル時代に越後湯沢にリゾートマンションが多数建設され、その数14600戸。スキーブームが終わった後の越後湯沢のマンションは今やほとんど使われず、所有者は売るに売れない状況が続いています(70㎡のマンションが100万円でも売れない)。中国全土にこの越後湯沢リゾートマンションのような開発が、上記12都市だけでなく100カ所あるのかいくつあるのか分からない状況になっています。
この住宅団地開発の資金の多くは、地方政府が作ったプラットフォームの融資平台が、今話題の影の銀行(シャドーバンキング)から調達しています。マンションを売って資金回収をし借りた金を返すつもりだったのが、マンションが売れずに在庫の山。こうなったら早晩行き詰るのは目に見えています(というかオルドス市カンバシ新区は行き詰ってしまった)。バブル崩壊後の日本で、銀行、ノンバンク、住専が資金回収できないでバタバタ潰れたのとほとんど同じ構図です。
今までは需要を無視して工場や住宅団地を作り続けてきたのが、これからは工場、設備、マンション群が廃棄に回る時代に入ります。工場が閉鎖されれば、従業員はすべて解雇。大量に首を切られる労働者が大暴れを始め、政情不安になることも十分想定されます。しかし規模が大きすぎるので、影響がどこまで及ぶか全く分かりません。
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