2013年7月23日(火)

銘建工業のバイオマス発電の取り組み

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

NHK広島取材班と藻谷浩介氏共著の「里山資本主義」角川書店、なかなか元気が出る良い本でした。衰退ばかりの地方山村でもやり方次第で産業を生み、人を呼び込めると言う内容です。その中でも大きく取り上げられていた企業が、岡山県真庭市本社の銘建工業さんで、社長が中島浩一郎さんです。

銘建工業は木材の製材加工の会社ですが、従業員100人、年間25万㎥の木材加工を行う西日本一の規模の製材会社です。ここが注目を浴びるのが本業の他に、他社では捨てている木材の製材屑を原料にバイオマス発電事業を行い、さらに暖房用の木材ペレットを作る。今後は超強度集成材であるCLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)普及にに力を入れているからです。

①   木材利用のバイオマス発電事業

・今から16年前の1997年に、10億円をかけて2000kwのバイオマス発電設備を導入した。工場内の電気代大半を賄え、これで1億円のコストダウン。売電収入で5000万円の収入。製材屑廃棄に掛かっていた費用2億4000万円のコストダウン。合計約4億円の収支改善。投資額が10億円が数年で回収できた。

・当初、電力会社は3円/kwでしか電気を買ってくれなかった。一番効率の良い石炭火力発電と同じくらいと言う理屈で。これが2002年に電力会社に自然エネルギー導入義務付けの法律ができ、一気に9円/kwまで売電価格が上がった。

・2013年2月に、銘建工業、地元林業・製材会社、木材事業協同組合、森林組合、真庭市等官民9社が出資し、発電会社「真庭バイオマス発電」を設立した。木質バイオマスで国内最大の1万kwの出力。2015年4月の稼働を目指す。総事業費は41億円。補助金で16億円、銀行から借り入れで23億円を調達するがこれも目途が付いた。

・発電所は年間出力7900万kwh、年21億円の売電収入を見込む。再生エネルギーの固定価格買取制度(フィード・イン・タリフ)で、間伐材を使った発電は33.6円/kw、製材所からの端材を使った発電は25.2円/kwで売電できる。発電所社員として15人を新規雇用。燃料購入費として年13億円支出予定だが、ほとんどが木材収集のための人件費に回るため、雇用効果は200~300人に上り、地域経済の活性化につながる。燃料は真庭市を中心とした地域から間伐材などの未利用材を年9万トン、製材所から出る端材など一般木材を5万8千トン集める。

・この真庭モデルを、高知県の山奥の大豊町にも導入。大豊町は、日本で一番最初に限界集落の町があると発見されたくらい、高齢化、過疎化が進んでいる町。ここに銘建工業が家具工場の跡地に製材工場を作る。杉などから集成材用の板材を原木換算で年間10万㎥を作る四国最大規模の工場となる。従業員は当初40人体制で開業し、3年後に60人まで増やす予定。ここにも真庭と同様に木質バイオマス発電所を作る予定。

・海外からの資源に頼らなくても、製材の木くず・間伐材を使えば、里山エリアは自分達の電気エネルギーを充分賄うことができる。それどころか他所にも電気を供給でき、発電事業として産業が成り立つ。ただし発電目的のために木を集めるやり方だとコスト的に合わないので、製材事業を行う一環で、トータルで木を利用しつくす手法が重要。

②   木質ペレット

・家庭用の使用するエネルギーは、電灯、テレビ、洗濯機など電気に頼らないといけないエネルギーは34.8%。残りは暖房26.8%、給湯27.7%、厨房7.8%、冷房2.9%。すなわち家庭用エネルギーの3分の2は、熱に関するエネルギー。現在の家庭ではこれら熱エネルギーまで電気で賄っている。これを木材、集成材を作る過程で排出される木材屑から木質ペレット(直径6~8mm、長さ3cm)を作り、暖房用として使うことができる。

・オーストリア、ドイツなどのヨーロッパでは、この木質ペレットが暖房用としてかなり普及している。これが本格的に普及してきたのはまだ高々10年数年。木質ペレットは20円/kgで販売しているが、ほぼ灯油と同等のコストで同じ熱量を得ることができる。コストは一緒でも、木質ペレットを作っている人たちは地元の人たちなので地元にお金が落ちるようになる。

・ヨーロッパはロシアからのガス輸入に頼っているが、ロシアがガス輸出を政治的駆け引きに使うことが度々あり、独自のエネルギー源を持たなければならないと言う意識に火を点けた。元々中東あたりの遠く離れた油田やロシアからエネルギーを持ってくること自体が非常に不自然なこと。身近にある森林からの恵みである木のエネルギーをとことん使おうとなった。

・オーストリアのギュッシング市(ハンガリー国境に近い山里)では木質ペレットを積んだタンクローリーが、家庭一件毎を回り、ホースで木質ペレットを配給して回っている。最適の温度で燃焼するように調整可能なボイラーが開発されており、これで暖房をすべて賄っている。石油暖房と遜色ないような使いやすい設備になっている。

・銘建工業も今までバイオマス発電だけでは木材屑を使いきれなかったため、残った屑を木質パレットにして利用していた。今後これを家庭用の暖房や、農家のハウス栽培用暖房に普及させていきたい。考えてみれば明治時代までは、電力、ガスなどは家庭に普及しておらず、家庭のエネルギーはすべて山からの木と炭で賄っていた。一部を昔に戻すと考えれば分かり易い。

③   高強度の集成材CLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)

・普通の材木より、カットした木を数枚貼りあわせて合成した集成材の柱の方が強度が高くなる。CLTは木の繊維方向を縦横にクロスさせた集成材で、通常の集成材よりより強度が強くなる。今まで3階建て程度だった木造建物が、強度が増したことでより高層の木造建築が可能となる。すなわり鉄筋コンクリート造建物にとって代われる。

・オーストリア、ドイツ、イタリア、英国などではCLTを用いた中高層の木造建築物が普及しつつあり、5階建て、高い物は9階建ての木造集合住宅が数多く建てられている。ヨーロッパでは普通に普及している建築技術。

・現在日本では耐震性能、耐火性能を実験で調査研究中。JIS規格で耐震性、耐火性が認められれば今後CLT集成材の普及が進んでいく。

木材のバイオマス発電を行うにも暖房用の木質パレットを普及させるにも、今まで以上に木の建物をより多く建てることが必要です。間伐材を集める手間(コスト)よりは、製材用の木材屑を利用するのが一番経済的なためです。このためにも自治体が率先し、公共建築物、例えば役所も学校も病院も警察署も、次の建て替えはCLTを使った高層木造建築物を作るべきでしょう。木造なら断熱性が高く、高温の夏場でも建物自体が熱を持ちませんし、冬場も外気で冷やされることがありません。人間は木の中にいると落ち着くと言う効能もあります。

限界集落と言われ続けた高知県大豊町が、自分たちの一番の財産だった森林資源に気付く。真庭市の銘建工業と組むことで集成材だけでなく他都市に電気と暖房用エネルギーを供給し、労働者として若者が戻ってくる。将来を諦めていた過疎の町が、是非元気に復活して欲しいものです。

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