2014年5月5日(月)

日本酒蔵元子息と東京農業大学醸造科学学科

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 ゴールデンウィークの最中に、前々から行きたかった東京農業大学「食と農」の博物館に行きました。最近良く耳にする「東京農業大学応用生物科学部醸造科学学科」。農大醸造学科に日本酒蔵元の子弟が全国から集まり、その卒業生が日本酒業界に革新を産み出しているというニュースです。

 東京農業大学「食と農」の博物館HPには、「日本酒の蔵元の8割(約1600社)が農大出身者ということもあり、本館2階にあります卒業生蔵元紹介コーナーではその一部280銘柄を紹介しています。」と書いてあります。2004年11月放映のアド街ック天国「世田谷区経堂」特集では、蔵元子弟の7割がOBと紹介されていましたから、その後も農大醸造学科に益々進学しているようです。全国の蔵元子弟が集まり、醸造の最新知識を習得し、同級生・先輩・後輩・教授陣との濃密な人間関係を作り、お互いに競い合って有名蔵元を目指す。現在の日本酒業界を牽引しているのが、正に農大だったのです。

「食と農」の博物館2階に上がると、壁一面にずらっと卒業生蔵元の日本酒瓶が並んでいます。 

東京農業大学     壁一面に並ぶ卒業生たちの蔵元の日本酒

 HPには「卒業生蔵元リンク集」が紹介されています。

http://www.nodai.ac.jp/syokutonou/link/kuramoto.html

私が好きな酒だけでもずらっとリストアップされています。

秋田県の斉彌酒造店(雪の茅舎(ぼうしゃ))  岩手県の南部美人  山形県の出羽桜酒造  宮城県の一ノ蔵  新潟県の朝日酒造(久保田、越州)、八海醸造(八海山)  佐渡島の北雪酒造  静岡県の磯自慢  福井県の黒龍酒造  愛媛県の石鎚酒造

次は農大OBが大活躍している蔵元の日本酒を紹介します。

高木酒造の十四代

 農大のリンク集には載っていませんが、「十四代」で超有名な山形県の高木酒造・高木顕統専務(46歳)も農大出身です。農大付属校から農大醸造学科に進み、卒業後は新宿のクイーンズ伊勢丹で酒売り場を担当。どのような日本酒に人気があるかを日々の売場で実体験。平成5年の25歳の時に実家蔵元に帰り、自分の目指す酒造りを行います。自分の目指す味で社長(お父さん)、作り手(杜氏たち)を押し切り、10年前には日本酒業界で確固たる地位を築きました。高木氏の十四代の成功物語が、他の卒業生への多大な刺激になっていることは間違いないでしょう。

 

十四代大吟醸9800円 (3)

②愛媛県西条市の「石鎚」

 松山市に出張で行き、ふらっと寄ったのが大街道の居酒屋「壷々炉(こころ)」。この店では日本酒の3種飲み比べができます。お店で用意してある各蔵元の説明文章で一番心を引いたのが「石鎚酒造」の越智兄弟の話しです。兄で営業担当の越智浩氏(専務取締役・昭和46年3月生 )と弟で杜氏の越智稔氏( 製造部長・昭和49年9月生 )で、兄弟揃って農大醸造学科出身。この二人が本当に美味しい日本酒を作ろうと、杜氏に任せていた酒造りから、自分たちで新たに酒造りを始めます。

 越智浩氏が日本醸造業界のコラム「醸 いいかも」に書いてある文章が、15年前に最初に手掛けた「石鎚・平成11酒造年度の仕込第22号・大吟醸」の話しです。

「蔵元家族で酒造りをスタートした1年目でした。周りからは素人の酒造りと揶揄されたりもしましたが、愛媛酵母EK-1が登場した年で、これを使って県、高松局と金賞、全国では惜しくも入賞止まりでしたが、これが私達の吟醸造りの始まりでした。今、経過簿等を紐解きますと、決して上手とは言えないのですが、私の中ではあの吟醸以上のものは、未だ出来ていないと思っています。真っ白な気持ちで造った酒。無心だったのでしょうか、がむしゃらだったのでしょうか、初心忘れるべからずだと思っています。」

 最初に越智兄弟が自分たちの酒を手掛けたのが15年前。兄弟で作り出した新しい酒が、あっという間に口コミで広がり、全国にファンが広がりました。入手が難しい十四代と違って、池袋東武デパート地下1階酒売り場で常時手に入れることができます。フルーティーな香り、口に入れた時の広がり(業界用語では膨らみ)、程よい酸味と甘さ、飲んだ後の心地よさ。私が買うのは「雄町純米槽搾り(ふねしぼり)」。4合瓶で1800円くらいなので、家で遠慮なく飲むことができます。石鎚のHPでは妹の越智弥生さん( 昭和46年3月生 )も農大醸造学科卒業と書いてありますので、兄弟妹3人の農大出身者が今の石鎚を牽引しています。

石鎚純米吟醸

雪の茅舎(ぼうしゃ)

 最近好んでよく飲むのが、秋田県の雪の茅舎です。名前の由来は、東京から来たある作家が雪に埋もれた茅ぶき屋根の農家が点在している冬景色を見て名付けてくれたそうです。銀座松屋デパート、有楽町「町から村から館」、池袋東武デパートなど色々なところで買うことができます。速じょう酛ではなく、手間のかかる山廃酛で作っているシリーズが特に美味しいと思います。有楽町交通会館の秋田県物産館で秋田の旨い酒が買えますが、大体「福小町」か「雪の茅舎」かを買っています。

 

雪の茅舎

④青森県弘前市の三浦酒造の豊盃(ほうはい)の「ん」

 昨年末に弘前市在住のかみさんの友人から送ってもらい、すっかり魅了された日本酒です。雑誌Dancyuで、ポスト十四代に押されて人気に火が付いたという記事もあります。

 三浦酒造の三浦剛史氏も農大OBです。ある方のブログで三浦酒造の記事を読むと、杜氏さんに日本酒造りで色々な注文を出しているうちに、次の年から来ませんと断られてしまったそうです。それで仕方なく弟・文仁氏と兄弟で酒造りを始めたとのこと。その後、平成17年、18年と観評会入賞を果たし今や人気銘柄になっています。かみさんの話しだと、40年前くらいの青森県のテレビコマーシャルで「ほうはい、ほうはい」と聞いていたそうで、青森県では老舗の蔵元なんですね。最近田酒が美味しいとは思わなくなってしまいましたが、豊盃「ん」はかみさん友達に何とか送って欲しいお酒です。

 

豊杯の「ん」

 

 十四代、石鎚、雪の茅舎、豊盃(ほうはい)と、農大OBが自らこういう日本酒を作りたいと頑張ったことで、ここ10数年で有名蔵元になっています。老舗で外部杜氏が旧来の酒造りをしていたのを、酒造りでは素人同然の農大OBが学校で学んだ知識と仲間から教わった技術で、人気銘柄を産み出している。彼らの頑張りと、今後続々生まれるであろう次の成功者には大いに期待をしています。

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