2015年3月30日(月)
日本酒飲み放題の新宿御苑駅・やまちゃん
雑誌Dancyuで日本酒特集を読んだら、3000円で日本酒100種類飲み放題の店があると書いてありました。その名前は「やまちゃん」。全国から集めた旨い日本酒が飲み放題で、好きなだけ時間制限なく呑める、そういう素晴らしいお店だと言うのです。3000円で呑める代わりに、つまみ類は一切置かず、全てお客さんが持参するシステムが特徴というのです。
そのやまちゃんに先日知人を誘って行ってきました。行ったのは3月の水曜日の7時。事前に予約しておいた方が間違いないと言うので、HPで予約状況を見てお店に電話。非常に愛想のよい受け答えの男性が「予約大丈夫です」と応えてくれました。
新宿御苑から徒歩2、3分の小規模事務所ビルが建ち並ぶ、少し場末の商業地。以前は四谷三丁目駅の新宿通り沿いの事務所ビルにあったのが、最近ここに移転しています。
中に入ると、内装は古ぼけた事務所仕様のまま。天井は蛍光灯長光管で、壁は白いビニールクロス、床はピータイル。テーブルは公民館会議室にある折り畳み式の長いテーブルで、丸椅子とパイプ椅子に座ります。
灰色ぽいジャージとトレーナーにキャップを被った30歳後半の男性がいます。そうかこれが経営者のやまちゃんか。風貌は林家こぶ平、もとい、林家正蔵に似た感じ。声が若干ハイトーンなのもこぶ平似です。店舗内装に金を掛けていないばかりか、本人の服装にも金を掛けていない。目立つのは日本酒一升瓶がずらっと並んだ大型の冷蔵庫3本だけ。
店の奥に立っているやまちゃんの居る場所がレジとなっており、ここで入店時に一人税込3240円を支払います。お金を払うと青いタグの付いた首掛けのひもを渡され、これを首に掛けることで支払済みが分かる仕組みです。
席に着くと先着の人たちも交えて、10人くらいにやまちゃんがお店の仕組みを話し始めます。「当店では必ずおちょこで呑んで下さい。コップは危険です。危ないから絶対にコップ酒はやめて下さい。基本的に皆さんから見える冷蔵庫のお酒は飲み放題です。それに加えて少し追加料金を出すと呑めるプレミアムのお酒もあります。プレミアムのお酒の一杯だけ追加料金なしで呑むことができます。現在79本の日本酒が並んでいますが、無くなるごとに新しい別の日本酒が加わって行きます。日本酒はテーブルに持っていかず、冷蔵庫前のカウンターで注いで下さい。9時になると15分間の休憩タイムがあります。休憩タイムには皆様のおちょこは全て回収させて頂きます。少し休んで水を飲んで頂いて後半戦に備えて下さい。出入りは自由ですので、途中でおつまみを買いに外に行っても構いません。」
やまちゃんの説明が終わり、早速に呑み始めます。おちょこで何度も席を立つのは面倒くさいですが、色々なお酒を楽しめるのは最高です。79種類の内呑んだことがある銘柄はざっくり10種類くらいで、ほとんど呑んだことが無い酒ばかりです。どのお酒もなかなか悪くない味。大半は純米吟醸で、香りの豊かな生原酒が多くあります。
おちょこ数杯呑んで落ち着いたところで店内を見渡すと、7時過ぎの段階でざっくり8割くらいの入りです。40人はいないけど、30数人はいるかな。年代も20台の若者から、30歳台のカップル、60歳台のおじさんグループと多種歳々。これだけの人数をやまちゃん一人でオペレーションをしています。と言うよりもやまちゃんがお客さんに交じって、日本酒を旨そうに余裕で呑んでいます。
来ているお客さんの共通点は誰もが良く日本酒を呑むこと。特に女性が積極的に席を立ち、日本酒リストをチェックしながら杯を重ねていきます。一緒に来ている彼氏よりも彼女の方がガンガンに呑んでいる。
おつまみは皆持参ですが、焼き鳥を山盛り重ねる若者グループ、缶詰系をどっさり持ち込むグループ。私の所はデパート惣菜持ち込派です。コンビニの乾き物系も少しはいますが、つまみには皆さん拘っている感じ。圧巻なのはまな板で大きな鯛を捌く20台女性とその彼氏のカップルでした。ここで生魚を捌くのか!刺身で食べた後に、やまちゃんから鍋を借りて鯛のあらで鍋を始めます。自由だ、自由すぎる!
そこそこ呑んで食べてしゃべっていたら9時を知らせるやまちゃんのホイッスルが、申し訳なさそうに弱く小さい音で聞こえました。思わずお客さんから「やまちゃん、弱っ。」の声が掛かります。やまちゃんが「大変申し訳ありませんが、これから休憩タイムとさせて頂きます。今飲んでいるおちょこは全て回収させて頂きます。この間にお手元のゴミなどは、分別して出して頂けますでしょうか。」
15分間することもないので、あらかた食べ終わったプラスチック容器、缶詰などをゴミで出します。もう帰ろうかなと思いながらも、もう少し呑むことにし、休憩後30分ほど呑んでから帰りました。店を出るころには、おちょこで15杯くらい呑んでいたので、まあまあ酔いも回ります。
翌日、やまちゃんの商売を考えてみました。
・つまみを出さず日本酒だけをセルフで呑んでもらうので、たった一人で運営ができる。40人くらい入る店がたった一人で回せる。アルバイトの人件費も、人が集まらないことの心配も要らない。
・日本酒は空になったら新しいのを追加で入れる。冷蔵された日本酒なので腐る心配が要らない。また食べ物を提供しないから、全く廃棄ロスが出ない。
・いかに日本酒好きが集まったとしても、4合呑む客は稀で、平均すれば3合くらい。一升瓶で平均原価3000円としても、一人当たり900円くらいの日本酒原価で済ませられる。これなら一人3000円取れば十二分に利益を出せる。
・お店の内装代、厨房代、什器備品にほとんど金を掛けていない。ついでに、やまちゃんの衣装代にも金を掛けていない。日本酒を入れる大型冷蔵庫さえあれば直ぐにもできる商売のスタイル。
・お店の一番のノウハウは、如何に酒飲みが喜んでくれる美味しい日本酒を集めてくるか。これさえ守っていれば、オンボロな店だろうがお客は文句を言わない。逆にぼろな店に粗末な服装をしたやまちゃんが味になっている。
・ざっくり計算しただけでも、1日の売上は10万円は下らない。一方、日本酒原価、賃料、水道光熱費、設備償却費、ゴミ出し費等の費用は売上の50%未満。少なくとも毎日5万円以上の利益が出ている。
酔っぱらって暴れるのを防ぐためにコップ酒禁止。ゴミ出しを効率的にお客さんにやらせるために考えた休憩タイム。しょっちゅう立ったり座ったりでおちょこで呑ませることによる酔いの促進。このどれもがやまちゃんが運営する中で考えついたノウハウなのでしょう。
ぼうっとしていそうで確実に稼いでいるやまちゃん。同種のライバル店がいない現状では、当分大いに稼げそうです。カッコばかりつけて客がいない銀座のイタリアンに比べれば、やまちゃんは優秀な経営者です。
追記 3月21日土曜日朝のテレビで「KURAND SAKE MARKET」という日本酒が3000円で飲み放題のお店を取り上げていました。“蔵人”をカッコ良く“KURAND”としています。そうかやまちゃんだけでなく、ライバル店も開業し始めているのか。池袋のお店だと言うので、ネットを見てビックリ!なんと不動産鑑定の恩師の事務所が以前あった場所だったのです。まあ、こちらの店も飲みに行ってみようっと。
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