2015年6月5日(金)
呉・江田島観光 大和ミュージアム、旧海軍兵学校、鉄のくじら
大学時代の友人と年に一度2泊3日で旅行をするようになって4年目です。今年は、広島県呉に行き、そこからフェリーで愛媛県に渡り、大洲、今治、松山を回る企画にしました。 初日はニッカのマッサンで有名になった竹原を回って呉に行こうと思っていましたが、調べるうちに呉は1日掛けないと回りきれないと知り、呉と江田島観光にしました。
呉は言わずと知れた海軍の町で、戦艦大和を始め多くの戦艦を建造した歴史を持つ造船の町です。呉港そばの埋立地には「大和ミュージアム」と、引退した潜水艦を陸上に揚げたミュージアム「鉄のくじら館」があります。船で行けばすぐの江田島には、旧帝国海軍兵学校、現在は海上自衛隊第一術科学校があります。呉には、映画「仁義なき戦い」の広能さん(菅原文太)みたいな人が大勢いるのかと思っていましたが、お見受けしませんでした。
1.鉄のくじら館
呉駅の南側徒歩5分、呉港のそばに、現役を引退した巨大な潜水艦が陸上に展示されています。ゆうしお型潜水艦「あきしお」で、昭和60年に進水。平成16年に引退し、平成18年からここに展示されています。長さ76.2m、基準排水量2250トン、乗組員75人。潜水艦に隣接して展示館があり、これが海上自衛隊の活動を紹介するための無料の施設「鉄のくじら館」です。通りを挟んだ向かいには、戦艦大和の1/10のスケールの復元艦が展示される「大和ミュージアム」があります。
地上に上がった鉄のくじら 潜水艦「あきしお」
入館すると最初に展示されているのが、海上自衛隊が朝鮮戦争当時の機雷除去のために創設されたという歴史が紹介されています。朝鮮戦争が始まってから、北朝鮮側が多くの機雷を日本海側に流し、これが日本の領海まで流れ込みこの除去をする必要がありました。
展示館から潜水艦に繋がっており、潜水艦の操縦室も見学できます。操縦室は物凄く狭く、無数の計器が並んでいます。また、展示建物内で乗組員の寝室も見学できます。これも寝台車のベッドくらいの大きさで、かなりの狭さです。
操縦室付近の計器
現在の海上自衛隊で潜水艦乗りはエリートになるそうです。潜水艦を動かすには、かなり高度の知識と経験が要求されます。相手に気付かれないように敵地領海まで侵入し、海底からミサイルを発射できる。相手にとっては非常に厄介な兵器です。日本の潜水艦は騒音(ソナー音)が少なく見つかりにくいとされています。現在、オーストラリアの次期潜水艦で日本が技術供与するかどうかが大詰めとなっています。
では潜水艦はどうやって動くのか。普通の船なら重油やガスでエンジンを回すのだと分かるのですが、潜っている状態だと酸素は無いので火は燃やせません。中にいた30歳代の海上自衛隊の人に聞くとそんなことも知らないのかという表情で、「海上に出ている間にディーゼルエンジンで発電を行います。十分に充電をしたら潜水し、電気を動力として海中で行動します。」と教えてくれました。なるほど、潜りっぱなしと言う事ではないんだ。クジラと同じように時折海上に出て、息をする(発電する)のだと知ることができました。
この鉄のくじら館から南方へ2、3km行ったところに、海上自衛隊の潜水艦が5、6隻浮いていました。この場所が「アレイからすこじま」と呼ばれているところで、日本で唯一潜水艦、護衛艦が間近に見られる場所です。普段見られない潜水艦が堪能できるのは呉だけです。
アレイからすこじまの現役潜水艦
2.江田島の旧帝国海軍兵学校(現・海上自衛隊第一術科学校)
陸軍士官学校は東京の市ヶ谷にありましたが、海軍は築地にあった兵学校を明治21年に呉の隣の江田島に移し、ここで終戦を迎えました。旧海軍兵学校を卒業した軍人はエリートで、年功序列のピラミッド組織を形成していました。歴代でも鈴木貫太郎、山本五十六など有名な軍人が江田島の海軍兵学校長をしています。築地の遊びが多い都会から、一転して何もない江田島に移り、そしてここで3年~4年間を同期たちと過ごす。ストイックというか鉄の結束を感じさせます。と同時に、遊びの無い純化し過ぎた怖さも感じます。兵学校としては、イギリスの王立海軍兵学校、アメリカの合衆国海軍兵学校とともに、世界でも最大の兵学校の一つと言われています。
戦後、海上自衛隊ができてからは海上自衛隊第一術科学校となりました。我々のような部外者でも中を見学することができ、毎日3回、1時間半のコースで海自OBの方が無料で案内してくれます。数人ぐらいの見学者かと思っていたら、時間になると30人くらい集まっていました。中々の人気です。
建物は旧兵学校時代の建物が残っていて、そのまま校舎、講堂として使われています。赤レンガの立派な建物で、趣のある歴史的建物が数多く現存。兵学校の頃は、入学式と卒業式でしか使われなかった講堂にも内部を見学できます。最後に資料館を案内され、戦争の遺品や、卒業生の手紙など戦争の悲しい資料が数多く展示されています。
旧海軍兵学校①
旧海軍兵学校②
大講堂外観
大講堂の内部
3.大和ミュージアム
江田島から約1時間掛けて呉に戻り、大和ミュージアムに行きます。平成16年12月に開業し約10年。来状者数が今年の夏1000万人を超えたと言うのですから、物凄い入場者数です。ここの最大の売り物は、約2億1千万円かけて作られた10分の1の大きさの戦艦大和です。
戦艦大和は、1937年11月に呉で建造された日本海軍最大の戦艦です。基準排水量64,000トン、全長263m、最大速力27.46ノット、最大乗組員3332人。大和と兄弟艦で同じ形・大きさなのが戦艦武蔵で、こちらは三菱重工長崎造船所で作られています。
この大和の1/10の大きさで、長さ26.3mでも十分に大きい。そうか本物はこの10倍の大きさか!約80年前にこれだけ馬鹿でかい船を作る能力があったと言うのは驚きです。先頭の下部にある球体の突起物が「バルバスバウ」です。これがあることで水の抵抗が減少し、高速力を出すことができる。これも日本技術者の考えたオリジナルの技術です。また、船をブロックごとに建造し、これを後からつなぎ合わせる最新工法も大和建造時に取られたそうです。
1/10スケールの戦艦大和①
1/10スケールの戦艦大和②
行く前に買った「呉・江田島 歴史読本」の本に、大和ミュージアム館長・戸高一成氏のインタビュー記事が載っていました。“歴史とは言うのは後から触ってはいけないもの。良いことは褒めて良いし、悪いことは当然非難して良い。それを隠しては駄目なんだと。両方あるのが歴史で、あったことをあったように展示する。” “折角1/10スケールの大和を作るならできるだけ細部まで本物に近づけよう、展示品とは言え徹底的にやろうとなった。船の甲板も本物の木を使い、船体も鉄を使う。船体は護衛艦を作っている三井玉野造船所に依頼した。つまり現在の軍艦を作る技術そのもので造っている。”と書いてありました。
また、俳優の石坂浩二氏が名誉館長になっていて、お宝鑑定団で出品した本物の戦艦長門の軍旗を評価額通りの1000万円で自費で購入し、これを大和ミュージアムに寄贈したことも書いてあります(売主はもう少し高くと交渉したが、石坂氏は評価額通りを譲らなかった)。
石坂浩二氏寄贈の長門軍機
館内にはゼロ戦や、潜水艦の特攻機ともいえる「回天」も展示されています。敵の船に爆弾を積んで突っ込む回天。これに乗る人たちはどういう気持ちで、この狭い空間に入って行ったのでしょうか。他には、大和を建造した呉海軍工廠(こうしょう、軍隊直属の軍需工場)をはじめ、軍港都市だった呉の歴史や造船技術が紹介され、大和などの関連資料約1万7千点を所蔵しています。
ゼロ戦
潜水艦 回天
空母の時代に無駄な戦艦を作ったと言われながら、これだけ立派な巨大戦艦を作る能力が戦前の日本にはあり、この技術力を欧米が恐れたのは間違いないと思います。この巨大船製造能力は決して無駄ではなく、後の大型タンカー建造に生きていきます。
追記 IHIが建造したタンカーの写真には、IHI社長だった真藤恒さんの写真も載っていました。後にNTT初代社長となり、その後リクルートコスモス未公開株で失職。しかしIHI時代には造船では二流企業でしかなかった石川島播磨重工を業界トップに押し上げ、日本の造船業の発展に貢献した功労者。IHI時代には日本を造船で復興させるんだと気迫があったのでしょうね。
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