2015年8月30日(日)
里海資本論 カキの浄化作用 海の森アマモが魚を育む
里山資本主義を書いたNHK広島局のチームが書いた第2弾の「里海資本論」(角川新書)。これも読んで元気になる本でした。
高度成長期に一度は失ってしまった瀬戸内海の自然環境。以前は海岸沿いに岩場があり、そこに無数の牡蠣等の貝類が棲息し、貝類がプランクトンを食べることで海を浄化していた。浅瀬には、アマモ、ホンダワラなどの海藻類が海の森を形成して、色々な生物がそこで育っていた。小動物が育つと、小魚がそれを食べに来て、もっと大きな魚が小魚を食べにくる。結果、アマモの森には無数の魚たちが暮らせていた。そのアマモの藻場が、海が汚染されることで太陽の陽が海底に届かなくなり枯れてしまった。
この失われた自然環境を、瀬戸内海の漁師、水産試験場の人たちの努力で2000年くらいから徐々に取戻し、現在は昔ほどとまでは行っていないがかなり水質も浄化され、魚が棲みやすいアマモの藻場が広がっている。
人に役立つ未利用の資源を活かすのが里山資本主義とすれば、もう一歩進み自然と対話し、適切に手を加えて本来の命のサイクルを整え高めていく。漁師も魚が多く獲れるし、住人もきれいな海で海水浴を楽しむことができる。海の生物も昔の環境で生きることができる。
大体、上記のような内容が中心ですが、海の汚染に負けないで浄化に努めた人たちがいたからこそ、我々及び後世代も海の恩恵に預かれるということを再認識できました。本書に書いてあった概要をざっくり纏めてみます。
・昔のカキは海の岩場でいくらでも育った。この海岸が高度成長期に、住宅団地、工業団地などの埋め立てが行われ、カキが育つ岩場が無くなってしまった。白砂青松(真っ白な砂浜に松林の青色が映える風景)の景色も失われてしまった。
・できた工業団地や住宅団地からは、工場の廃水、生活廃水が流れ込み大量の窒素、リンが海に流れ込む。窒素、リンはプランクトンにとっては好物であり、大量発生を引き起こす。魚の餌となるプランクトンだけでなく、毒性のプランクトンも異常発生してしまう。これが赤潮と呼ばれる状態。プランクトンが一気に増えたことで海の酸素が欠乏し、毒性プランクトンもあり、大量の魚が死んでしまう。魚やプランクトンの死骸で海が汚染される。
・海の生き物を育むゆりかごであったアマモ場(イネ科の海中の植物、藻場)も海の透明度が無くなることで光が差し込まず光合成ができなくなり枯れてしまう。魚たちも産卵もできず、魚の餌となる小動物のすみかも無くなり魚が育たなくなってしまった。
・瀬戸内海で行われているカキ筏による養殖が海の浄化に非常に役立っている。エサをあげる必要もなく、海にいるプランクトンをカキが食べて育つ。プランクトンは水中の窒素、リンなどの物質を取り込んで育つ
・カキはたった1個で1日に300Lの水を取り込み、プランクトンをこしとって食べる。瀬戸内海全体では65億個ものカキが養殖されており、巨大なろ過装置となっている。養殖で使われる海に浮かべるカキ筏は10m×20m四方の筏に、長さ9mのワイヤが500本~700本ぶら下がっている。1本毎にカキが20個~30個付いた塊が数十センチごとにくっ付いている。カキ筏全体では40万個~60万個のカキが育っている。この筏でカキは約1年半吊されて育てられる。
・カキがいるところは岩場と同じように無数の小動物が育ち、海に浮かぶ岩場となっている。ツノガニ、ケヤリムシ、シロボヤ、ヒラムシ等。岩場に生息するおよそ200種類の生き物が住んでいる。この小動物を餌として小魚が集まり、小魚を食べようと大物の魚が集まってくる。カキにより水が浄化され、カキ筏の周りは魚の楽園となっている。
・カキの産卵の時期には、海の中を無数のカキの幼生が漂っている。筏に大量のホタテ貝殻をぶら下げてカキ幼生を付着させる。ただじっとしているとフジツボの幼生も付着してしまうため行ったり来たりしてフジツボが付かないようにする。
・瀬戸内海は満潮と干潮の差が2m~4mもある。吊るされたカキの赤ちゃんは毎日ほぼ半分しか水中にいられない状態が続く。夏の太陽があたると手で触れられなくなるくらい熱せられる。このような状態が1か月半続き、強いものだけが生き残れる。自然の力で間引きされるが、狭いホタテ貝殻では少なくしないとカキが大きく育たない。
・岡山県備前市日生(ひなせ)の漁師・本田和生氏は、1975年頃、魚が急に獲れなくなった原因はアマモがいなくなったからだと考えていた。本当の原因はまだ分かっていない時代だった。ちょうどその頃広島県水産試験場がアマモを増やす研究をしていたところで、大体増やし方が分かったと発表した。
・当時の海の底は赤潮(プランクトン)の死骸でヘドロ状の泥が堆積。土は腐って悪臭を放ち、水も濁って陽が射さない状態。そういう状態でアマモが育っている数少ない場所があった。カキ殻の捨て場だった。カキ殻には浄化作用があり、またカキ殻がヘドロが上に上がることを抑えてくれ、陽が海底まで射し込んでいた。
・意識的にカキ殻を海に撒き、アマモの種を撒き、水を浄化するためにカキ筏を近くに引っ張ってくる。戦後すぐには590haだった日生のアマモ棲息面積が1971年は82ha、1985年には12haまで壊滅的に減少。これがアマモを復活させようと言う取り組みで、2007年には80ha、2011年には200haまで回復した。そんな中、アマモ復活の立役者だった漁師の本田さんが死去。その志を仲間の日生の漁師が引き継ぎ、今も年々アマモ場が回復し続けている。アマモの海の森が復活することで、年々獲れなくなっていた高級魚が獲れ始め、漁師の収入に大きく貢献している。
・アマモの森も人間の手で多少空いた方が海の流れが良くなり丈夫に育つ。わざとアマモを空くために採り、取ったアマモを畑の肥料として使っている。アマモには豊富なカリウムなどを包含しており、昔から貴重な肥料だった。藻場は村ごとに権利を持ち、貴重な肥料として重宝していた。アマモと同様ホンダワラもミカンの肥料に使うなどの動きが出てきた。化学肥料ばかり使っているうちに味が悪くなってしまった。ホンダワラを肥料に使うことで、段々昔の味に戻ってきている。
今年、広島県江田島に行った折、海岸の岸壁沿いには無数のホタテ貝殻が見られました。あれは全てカキの養殖に使うためだったのだと理解できました。カキを大きく育てて、消費者に高く売る。その過程の中でカキが瀬戸内海を毎日毎日せっせと浄化してくれている。きれいになった海には、昔獲れた高級魚が戻ってきている。カキ漁師さんにとってもこんなやりがいはありません。
年内にもう一度広島、岡山に遊びに行き、備前市日生(ひなせ)の名物料理カキオコ(カキをたっぷり使ったお好み焼き)を食べながら、里海資本論を舌で味わってきたいと思っています。
追記 今年から試験的に始まった東京湾葛西臨海公園の海水浴。どの程度の海の綺麗さかと思って行きましたが、まだ何となく濁った感じでした。東京湾でも大量のカキ筏を浮かべ、浄化に励むべきだと考えています。焼き牡蠣も食べられるし。
と思っていたら、牡蠣で東京湾を浄化する仕組みは既に取り入れられているそうです。2020年東京オリンピックまでには、もっと大量の牡蠣が投入されるのでしょう。
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