2015年9月5日(土)

温泉トラフグと天然トラフグ

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 3年前のTBS「がっちりマンデー」で放映された「儲かる漁業」で、栃木県那珂川町の温泉トラフグの養殖が紹介されました。仕掛け人は地元那珂町で環境生物化学研究所を経営している野口社長です。

・環境生物化学研究所は地下水の水質や土壌調査が専門の会社。那珂川町の温泉の水質を調べてみたところナトリウムやマグネシウムなど、海水に近い成分が含まれていた。海の塩分濃度は3.5%。珂川町の温泉で飼育しているのは、塩分濃度が0.9%。

・那珂川町の10年間の人口減少は2000人、毎年200人が減少。過疎に悩む典型的地域。その中で、「町おこし」を考えた場合、経費を掛けず那珂川町の眠っている未利用資源を発掘し有効に活用できないかを考え、トラフグの養殖に辿り着いた。平成21年5月にようやく体調30cm前後、体重600gにまでトラフグを育てることができた。現在の出荷サイズは800g~1000g。

・塩分濃度が低い方がトラフグの成長が早くなる。海の魚は身体に入ってくる余分な塩分を常にエラから排出していて、それにかなりのエネルギーを使っている。塩分の低い水で育てると、そのエネルギーを使わないで済む分成長が早くなる。海での養殖は出荷サイズになるまで1年半掛かるのが、温泉トラフグは1年で同じ大きさに育つ。エサ代も半年分節約できて、かつ年に一度の出荷が可能になった。

・フグの肝に毒があるのは、海中のプランクトンを食べているのが原因。プランクトンがいない温泉水では、肝に毒のたまらない安全なフグが育つ。

・養殖事業を始めるのに、設備費用をできるだけ掛けない廃物利用をした。廃校になった武茂小学校を利用した第1プラント養殖施設(60t12t×5基)、小学校に隣接するビニールハウスで建設した第2プラント養殖施設(42t 12t×3基)、温水プール施設を転用した第3プラント養殖施設(250t 研究施設併設)を稼働している。

・平成22年6月に株式会社夢創造を立ち上げ、トラフグの生産を行っている。併せて他所の温泉町で温泉水を使って行うトラフグの養殖コンサルティングも行っている。

 なるほど、海の魚だから海の中でしか養殖はできないと思っていたのが、山の中でもトラフグを養殖できるのか。陸上養殖トラフグは、平均的な海面養殖トラフグに比べ、天然物に近づいてきているという評価もあるそうです。閉鎖式の循環型陸上養殖であれば山間部でも養殖が可能で、きつい肉体労働でもなく比較的新規参入しやすい。今後の新たな地域振興として期待されています。

 昨年JRの駅で「スキーと温泉とらふぐを楽しむ」、うろ覚えですがそんなタイトルのポスターを見ました。ネットで調べると、新潟県十日町の「とおかまち雪国温泉とらふぐ」でした。内容は那珂町の温泉トラフグにほぼ近いので、夢工房野口社長がコンサルティングしているのでしょう。

 フグと言えば下関ですが、実際には全国のトラフグが下関に集荷されるだけ。天然物で言えば水揚げ量1位は山口県ではありません。20年くらい前に遠州灘沖で海流変化が起きて天然トラフグの漁獲が増え、静岡、愛知、三重の東海3県が天然とらふぐの漁場として日本一で、全体の約6割を占めています。現実は遠州灘で獲られたトラフグが天然物として下関に送られています。

 この最高級の天然トラフグを地元で提供しようと「環浜名湖地域の観光資源を考える会」が「遠州灘天然とらふぐ」料理のブランド化を推進しています。近年は、舘山寺温泉を中心とした旅館、ホテル、料理店で「遠州天然とらふぐ」の提供が行われています。地元での加工のため新鮮で、しかも下関より3割くらい安い高級ふぐ料理が食べられ、うなぎに続く浜名湖の新しい特産品ブランドとして人気になりつつあるそうです。

 秋田県潟上(かたがみ)市は、天然トラフグが獲れる一番北の地域です。この潟上市でも「北限のふぐ」としてブランド化しようとしています。養殖物が主流の現在、味や食感では天然ものが断トツ上。秋田沖は天然トラフグが豊富に水揚げされているのに、地元では普段からフグを食べる食習慣がほとんどなく、その質や食味の良さは知られていませんでした。逆に県外の食通には、味わい深く弾力のある肉質が高く評価されてきました。

雑誌で記事を見たのですが、2013年8月に潟上市に飲食店「キッチン川島」をオープンさせた椛島博美さん、左智子さん御夫妻。広島市でフグの加工・販売を手掛ける中で、秋田から仕入れた「北限のフグ」と出会い、地元フグに惚れ込んで移住し店を出しました。現在では都会の人が北限のふぐを目当てに秋田県潟上市まで行くのだそうです。

 温泉トラフグに、知られていない天然トラフグの名所。訪れるべきところはまだまだ沢山あります。

追記1 平成17年度の養殖トラフグの生産量は、4582t。県別では長崎県が2374t、シェア52%で断トツ1位。2位は熊本県で664tです。天然トラフグでは平成15年は200tくらいあったのが、平成16年から激減し100t前後となっています。この天然物の約6割が遠州灘沖で獲れています。

追記2 2012年の新聞記事では大阪が全国のフグの約6割を消費していると出ていました。そう言えば大阪はフグ料理屋が至るところにあります。価格も東京に比べて断然リーズナブルです。フグ養殖地に東京より近いのと大量仕入れで、仕入れ価格は3割程度低いそうです。

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