2016年2月21日(日)

有馬を人気温泉に引き上げた御所坊・金井啓修さん

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 テレビ東京「カンブリア宮殿」2016年2月18日放送で、有馬温泉の人気宿「御所坊」経営者の金井啓修さんを取り上げていました。金井さんが有馬のために行った数々の地域おこしのアイデアで、近年人気が急上昇(全国人気温泉街ランキングで20位→5位)。以前は閑静な環境を売り物にしていた有馬が、現在は20年前の1.7倍、年間170万人が訪れる人気温泉街に育ったというのです。

有馬温泉は六甲山北側の神戸市北区有馬町にあり、三宮から神鉄有馬線等を使って早い電車だと40分弱で行けます。日本三古湯の一つであり、江戸時代の温泉番付でも当時の最高位に格付けされた関西を代表する温泉街。天下を取った後の豊臣秀吉も度々湯治に訪れとも言われています。標高は350mから500mにあり、急峻が地形で街中を多数の狭い路地が走っています。

 有馬温泉は15年くらい前までは芸者を呼んで楽しむような高級温泉街でしたが、金井さんが行った数々の仕掛けで日帰り客も急増。連日大勢のお客さんがやってくるようになりました。番組の概要は概ね下記の通りです。

・中心部の商店街で気楽に食べ歩きができる。小腹がすいたら、揚げ物やスナック系を頬張れる。好きなように街歩きを楽しんで、食事も楽しめる流れを作り出した。高級温泉街を若者たち、家族連れにも取っ付き易い温泉街に変えた。

・金井さんがビル1階の駐車場をドイツ風ビールパブにしたお店や、倉庫を改装して高級浴衣や和小物を売るお店など金井さんが16店舗を出した。温泉に浸かりに来て食事をして帰るだけでは飽きてしまう。もっと色々楽しめるようにしたいと言う金井さんの思いが、自分の好きなお店を自分で出してしまうとなった。

・有馬の狭い路地歩きを楽しめるように、芸術家がデザインした看板を掲げた。元々大学生に有馬で興味があるところの意見を聞いたところ、意に反して狭い路地裏が楽しいとの回答だった。それでは路地裏を楽しめる企画をやろうと「路地裏アートプロジェクト」をイベントとして行った。イベントが終わった後に作品を出してくれた作家たちがそのまま残してくれたので、それが今も路地裏歩きの楽しみになっている。

・アイデアを思いついたらすぐに実行するのが金井さん流。最近も街中を移動できる電動カートを数台導入した。1時間1000円のレンタル制。親子連れやカップルにこれに乗って楽しんでもらいたいとの思いから。

・金井さんが経営する御所坊は800年以上の歴史を持つ名門旅館。1泊2食で25000円からの設定に関わらずファンが大勢いて、稼働率は90%を超える人気の宿。兵庫県知事時代の伊藤博文が度々訪れていた。伊藤博文がこれからの日本人は欧米人に負けない立派な体を作らなければならないとのことで神戸牛を好んで食べたので、旅館では珍しい牛肉を使った食事をメインで出すようになった。御所の由来は足利尊氏が来たことによる。

・地元の旅館の経営者、商店街の人達も金井さんに関して、有馬温泉全体のことを考えて盛り上げてくれる人と感謝している。現在の有馬を潤している一つが、昼間の温泉付き昼食パック(3000円強)。20年前に金井氏が有馬で最初に企画し、その後他の旅館も追随したことから大勢のお客さんが来るようになった(ファンになれば次は宿泊で来てくれる)。

・閉鎖された旅館の再生として、大人が楽しめる「おもちゃ博物館」も金井さんが作った。自分自身がおもちゃ好きということもあるが、元々おもちゃ職人が多かった神戸の歴史にちなんで博物館を作った。

・節分のイベントでも、ただ豆を撒くだけではなく、鬼や芸者に仮装した仮装大会の趣で温泉街をあげて楽しめるようにしている。元来の節分は仮装して楽しむ風習があり、昭和40年くらいまでは芸者衆が仮装をしていた。唐突な仮装ではなく、伝統を復活させて楽しむ。

・有馬温泉で売れているのが有馬サイダーで年間20万本売れている。昔は有馬鉱泉が作ったサイダーが日本で初と言われている。この伝統を復活させたところ人気に火が付いた。伊藤博文公が牛肉を食べたこと、節分での仮装、有馬鉱泉のサイダーと金井氏は歴史とストーリーに拘る。ただの思いつきでなく、文化として発信している。

・若い時の金井さんは、自分で旅館を継ぐことなど考えず、パリで絵描きになることを志していた。しかしひょんなことでパリに行けず、仕方なく北海道の定山渓温泉で働くことにする。その時に出会ったのが、1件の人気のピザ屋に衝撃を受ける。こんな山奥にこんな素晴らしいお店を作れるのか。お店のご主人は「田舎でもいくらだって良いお店は作れると思います。」と話してくれ、その言葉が深く心に刺さった。

・その後金井さんは有馬に戻り、実家の旅館を継ぐこととなった。時代は日本がバブルに向かう少し前で、旅館業界は団体客を如何に呼び込むか。如何に大型化していくかが主流の経営手法だった。金井さんはこれを疑問に思い、御所坊で何ができるのか、何が一番強みになるのかを考えた。御所坊は昔ながらの木造でできたクラッシクなたたずまい。出した結論は、「規模ではなく御所坊にしかない魅力(和の落ち着いた空間、もてなしの料理)で勝負しよう」。

・団体客相手ではなく、単価の高い個人客をターゲットにする。一つ一つの部屋にテーマを決め、谷崎純一郎、吉川栄治、伊藤博文等宿にゆかりのある方々をモチーフに、直筆の原稿、掛け軸などを買い集めて展示した。自分の所にしかないストーリーを個性として磨き上げる。こうすれば必ず生き残れる。自分が泊まりたい宿を作ることも、自分が住みたい町を作ることも一緒である。こうして御所坊を個性的な宿にすると同時に、有馬温泉の町としての魅力を高める事にも邁進した。

・金井さんのやり方に共鳴する各地の個性的旅館がある。岡山県苫田郡鏡野町の山深い里山にある「奥津荘」。他の温泉旅館が次々と廃業する中で、奥津荘だけが人気を博している。昔売れない棟方志向が滞在しており、お金の代わりに作品を納めていた。奥津荘では近隣から棟方志向の作品を買い集め、館内に展示。また、地元で獲れるイノシシを牡丹鍋(味噌味)で出すのが評判となり、リピーターの心を掴んでいる。

・愛知県田原市渥美半島にある「角上桜」も個性的な宿。以前は数えるほどしかいなかった宿泊者が現在は年間8000人が訪れるようになった。建物の古さを生かして落ち着いた和の空間を演出。天然物フグの名産地である地の利を生かし、フグをメインとした料理を出したところ人気に火が付いた。小さくても玉のように個性がある旅館を目指している。

・金井さんが中心となり、全国30の個性的旅館が連携し、「日本味の宿」を立ち上げた。フランスのオーベルジェのように地元食材を使った個性的料理を提供し、日本文化を発信できる一定水準以上の宿を世界相手にきちんと伝える。インバウンド客に如何に素晴らしい旅館があるか、1件づつではなく仲間と共同して大きく発信していくことを目指している。

・2015年に約2000万人のインバウンド客が訪れている。1人4泊として延8000泊の需要がある。しかし現状は10分の1の800万泊程度しか旅館に泊まっていない。ありきたりの1泊2食の旅館スタイルでは、外国人は旅館に泊まってくれない。如何にそこにしかない食事を提供しないとインバウンド客も喜んでくれないだろう。

・御所坊では新しい挑戦として、1泊45000円からの「御所別墅(ごしょべっしょう)」を新しく開業した。1室100㎡あるハイエンドな旅館で全10室。資産家のインバウンド客が充分満足できる旅館を目指している。

 金井さんという一人の革新的な人がいるだけで地域が大きく変わる好例です。地域の資源を活かし、自分の強みを前面に出して、他とは違う個性を訴える。「日本味の宿」に参加する旅館連合軍にも大いに期待できそうです。

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