2015年7月17日(金)
出版会社の現状 売上はピークの6割に
某雑誌の編集長だった方に、出版社の現状を聞く機会がありました。厳しいとは聞いていたものの、現状を聞いて改めて本当に厳しいことを理解できました。その概要をまとめてみました。
1.メディアの大変革
①伝統紙メディアの弱体化
新聞を毎日購読している読者の平均年齢は60歳台、70歳台が中心。現役世代の新聞読者は年々減少している。若者たちはより一層新聞を読まない。新聞を読むと言うという習慣が無くなっている。電車に乗れば、ほとんどの若者はスマホを見ている。
東日本大震災以降、SNSが一層世の中に浸透していった。個々の情報を取るのに、伝統的メディアに頼らない。個人個人が発信しているツイッター、SNSから情報を入手するようになった。
オンラインメディア(Web)で、キュレーションサイトが台頭。キュレーションサイトとは、新聞社、雑誌、テレビ局からニュースを買ってフリーでニュースを流すもの。ネットを開けば、大手紙のある程度の情報はキュレーションサイトでタダで知ることができる。
②電子書籍の急成長
アマゾンの電子書籍キンドルだけでも無料本が何万冊もあり、タダで読める本で溢れている。日本文学の名著なども皆タダで手に入るから、価格が付かなくなっている。従来は書店に行き本を買ったり、暇をつぶしていたりしたが、今の若者に益々書店に行かなくなっている。欲しい本があれば、ネットで注文を出す。大きな本屋に無い本でも、アマゾン、楽天では手に入る。今すぐ書店で手に入らなくても数日で入手できるので、本屋で探すようなことはしない。
現在、紙ベースで出している本も年々電子書籍を同時に出すようになって年々この比率が高まり、今では50%、60%になってきている。電子版の方が利益率は格段に高い。一般の書店の粗利益率が20%とすれば、電子書籍の粗利益率は40%程度と言われている。
今までの書店NO.1は紀伊国屋書店だった。これが1年前からアマゾンに替わった。出版社も今まで大手書店の幹部を呼んで出版パーティをしても、アマゾンには声を掛けていなかった。最近は電子書籍配信者を無視できなくなり、アマゾンもパーティーに呼ぶように変わってきた。売る力を持っている彼らに対して、出版会社も段々アレルギーが薄れてきている。
③テレビは小学生と主婦と老人のメディアに
働く現役世代は益々テレビを見なくなってきている。何を見るかと言うと、見たい番組をネットで探して見ている。既存テレビは、小学生と主婦と老人のメディアになりつつある。
2.大変革の背景
①デバイスの変化
新聞、雑誌は年々売上が落ち込んでいる。特に夕刊などは、ネットのニュースで見たような記事ばかり並んでおり、既視感に襲われるような情報媒体で、存在価値がどんどん低下している。テレビは東日本大震災以降、盛り返してきている。テレビはネットと連動して情報を流すことをしており、ネットと親和性が高い。
メディアのデバイスも、紙媒体から、スマホ、アイパッド等のタブレット端末に替わってきた。今後はウェアラブル端末なども充実していくだろう。
②個人からの発信も伴った双方向メディア
個人が今見たものをネットに直ぐに情報として流す。これは“個人のジャーナリスト化”と言える。その個人の情報を多くの人が見られるのが現在の社会。情報発信・情報の入手が、いつでもどこでもできる時代と言える。
③若い人は関心のある情報しか入手しない
我々世代だととにかく新聞を隈なく読んで、苦手な記事でも目を通し少しでも理解しようと言う意気込みがあった。新聞を読まない若い世代は、自分の興味のある分野を検索して情報を得る。得意な分野、興味のある分野には凄い知識を持っている。しかし、興味が無い、苦手な分野には知識が極端に落ちる傾向がある。オールラウンドな知識は低下している危惧がある。
3.出版業界の地殻変動
①出版市場の長期低落、書店数の減少
新聞を除く1996年の雑誌・書籍の売上は約2.6兆円。これが2014年で約1.6兆円。2020年は約1.3兆円と、1996年売上の半分まで減少すると予測されている。 書店数も1999年に22,300店。これが2014年には13,500店と、たった15年で約4割減少している。
③アマゾン、楽天などの電子書籍が隆盛
自由に価格設定できない紙ベースの本と違って、電子書籍は再販制が無いので自由に価格設定できる。売れなければ数週間経つと、キャンペーンと称して売値を自由に下げて販促している。ただ、電子書籍は年々売り上げを伸ばしていると言いながら、2015年で1880億円。2018年予測でも3340億円程度と決して大きな売上とはなっていない。欧米でも電子書籍の売上は伸び悩んでいる。
④版元-取次-書店と言った業界秩序の崩壊危機
再販売価格維持制度(再販制)下で、書店は値引き販売はできないが、売れ残った出版物は仕入れ値と同額で出版社に返品することができる。この返品率が現在は平均で40%くらい。10年、15年前は返品率が20%程度だったので、恐ろしいほど数多くの売れない本が戻って廃棄されている。ちょっと売れない本だと半分が戻ってきてしまっている。出版会社から、日販、トーハンなどの取次店に行き、そこから書店に本が流れるという従来の流通も崩壊の危機にある。
4.出版業界のグリーンシュート
①合従連合
角川書店とドワンゴが経営統合した。出版会社がネット化を目指している。ただ噂ベースだが、ドワンゴと一緒になった角川書店で社員が相当数自発的に辞めていると聞いている。ネット化、電子化が急速に進められているが、従来の紙ベース担当者はモチベーションを失い、外に出て頑張ろうとしている。優秀な編集担当も数多く辞めると少なからず影響はある。大日本印刷系書店(ジュンク堂、丸善、図書館流通センター)と紀伊国屋書店が合弁会社を作る。両社のシェアを合わせると16%~17%と巨大なシェアになる。
②アマゾンと手を結ぶ動き
角川書店はアマゾンでいち早く直販を表明した。講談社も楽天と手を結び、電子書籍を出す。野間社長と三木谷社長が一橋大学の同窓だから組むことになったとも言われている。
③コンビニが出版界で台頭
コンビニの書籍売上が益々大きくなっている。コンビニでは難しい本は売れないが、「これさえ読めば○○業界を理解できる」的な分かりやすいムック本は書店よりも数多く売れる。但し、コンビニは棚の売上がシビアであり、3日くらいでどんどん置き換わっている。
雑誌で一番売れているのは何といっても漫画本。100万部売れるのはジャンプやマガジンなどの漫画本。出版会社の屋台骨を支えているのは漫画本であるとも言える。ただ、価格が安いので数多く売らないと本当の利益にはならない。
コンビニでもセブンイレブンが書籍売り上げでもトップ。店舗数もあるが、日販額が大きいのは集客力が高いと言うことでもあり、書籍・雑誌売場としては大きな存在となっている。
5.その他の動向
①経済誌の動向
年々経済誌は各社とも売上を落としている。日経ビジネスが10数年前一番売れていたが、この時は36万部くらいあった。これが現在は20万部を切っていると思われる。東洋経済、ダイヤモンド、日経ビジネス各社ともオンラインメディアに力を入れている。
経済関係の書籍も年々売上を落としている。昔のような名著と呼ばれるものは出にくい時代となっている。売れないために、売れる本づくりに走りすぎているきらいもある。ダイヤモンド社は数年前に「もしドラ」で200万部売れたと言っていたが、これも長期で残っていく本とは言えないかも知れない。正確には200万部は売れたではなく、印刷したということで、ブームが去った後に返品の山が来て大変だったとも聞いている。
②一時期流行った付録付の女性雑誌
宝島社がやり始めてブームになった付録付女性誌も、今や全く下火になってしまった。本だけではやっていけないと、洋服の通販を始めた雑誌社もある。本当にそれで儲かるかどうかは分からないが、とにかく生き延びるために色々なことにトライしていると言うのが実情だろう。
③出版社の儲け
従来は100冊本を出せば、その中で2、3冊は20万部、30万部売れるヒット作品が生まれた。初版だけでは利益は出ず、重版を重ねていくことで出版社は利益を出せる。本を出すと言うことは、企画から始まって、広告宣伝を行い、何だかんだで6か月くらいの期間が必要。初版本だけの制作では、利益を出すまでに至らない。重版を重ねることで、どんどん利益が出ていく。
以前は初版本で7000部くらい刷っていた。これが最近の返品率が高くなっていることから5000部になり、3000部というのも出てきている。高価な専門書は3000部くらいの売上で元は取れるかも知れないが、一般の本は数千部では手間ばかりで利益は出ない。
出版会社は、大手書店でどういう本がどの程度売れているかを見ることができる。一番売れているのは漫画本である。ワンピースだけで総発行部数が3億部を超えている。最近の傾向としては、フランスやアジアでも日本のアニメ人気は高く漫画本が売れている。漫画本がますます出版会社の屋台骨を支えて行くのだろう。
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