2010年7月12日(月)

1-6 住宅賃貸借の原状回復義務

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

賃貸住宅の賃貸借契約では、退去する時の原状回復義務はどう表現されているでしょうか。従来の賃貸借契約書は、借主の費用負担で原状回復を行うとなっているはずです。50㎡の賃貸マンションでも床、壁、天井をカーペット交換、クロス張り替えするだけで20万円~30万円かかりますので、2か月分の敷金以上にリフォーム費用が掛かってしまうこともざらです。

現実には敷金が返ってくるどころか、敷金以上の補修費を請求された方もいらっしゃることでしょう。通常の用法に従って使っていただけなのに、経年劣化の費用まで賃借人が負担しなければならない。このような慣習にご立腹の方も多かったと思います。

借主負担の原状回復の商慣習に風穴を開けたのが、東京都都市整備局です。通常の用法に基づく建物の経年劣化は、貸主の負担であることを「賃貸住宅紛争防止条例」でうたっています。賃貸住宅紛争防止条例は平成16年10月に施行され、今ではほとんどの不動産業者さんに「東京ルール」として浸透してます。

東京都の賃貸住宅防止ガイドラインのHPには下記のように記載されています。

(1) 貸主の費用負担:賃貸住宅の契約においては、経年変化及び通常の使用による損耗・キズ等の修繕費は、家賃に含まれているとされており、貸主が費用を負担するのが原則。例えば、壁に貼ったポスターや絵画の跡、家具の設置によるカーペットのへこみ、日照等による畳やクロスの変色など。

(2) 借主の費用負担:借主に義務として課されている「原状回復」とは、退去の際に、借主の故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって生じた住宅の損耗やキズ等を復旧すること。その復旧費用は、借主が負担するのが原則。例えば、タバコによる畳の焼け焦げ、引越し作業で生じた引っかきキズ、借主が結露を放置したために拡大したシミやカビ

(3) 借主の負担割合:原状回復の費用の負担は、破損部分の補修工事に必要な施工の最小単位に限定される。また、破損部分の通常損耗・経年変化分の経費は貸主の負担。壁(クロス)は、原則1㎡単位。経過年数を考慮し負担割合を算定畳は原則1枚単位。ただし、経過年数は考慮しない。

ここで、最近もう一つ消費者保護の改正法ができました。平成19年6月7日に施行された消費者契約法の改正です。一定の資格を持った適格消費者団体(当初5団体のNPO)に賃貸事業者の不当な行為に対する差止請求権を認める消費者団体訴訟制度が新たに導入されたのです(従来は個人が個別に争わなければならなかった)。

適格消費者団体の1社である消費者機構日本のHPを見ると、大手の不動産会社A社に消費者機構日本が下記申し入れを行い、今後A社の住宅賃貸借契約書は以下の内容に従って契約書面を改定することが約束されたそうです。

①退去時、借主(消費者)に対し、経年・自然損耗範囲に属する修繕費用の半分及び室内クリーニング費用の全額を負担することを求めない。

②借主(消費者)に対し、壁・天井(クロス等)の張替え・交換など、軽微な修繕とはいえない修繕費用を負担することを求めない。

③借主(消費者)が成年被後見人、被保佐人、被補助人の審判を受けたこと、破産の申立て、再生手続きが開始されたことを理由として契約解除をしない。

賃貸住宅の経年劣化・汚れは原則貸主負担という流れは止めようが無いようです。

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