2016年9月10日(土)

橋下徹氏 2016年9月全日本不動産協会での講演

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 毎年9月に所属している不動産業者の団体「全日本不動産協会」で研修会があります。今年は前大阪市長だった橋下徹氏。会場となった東京国際フォーラムの一番大きな会場は、超満員御礼の状態でした。大阪市と大阪府がお互い無駄に張り合って、如何に無駄な行政運営がなされているかを聞きこれは他の方にも伝えた方が良いと思い、講演の内容をまとめてみました。

・役所は如何に自分の権限を守るかに汲汲としている。民間人が活躍しないと経済が活性化しないのに、役所が自由に民間が動けることを阻害している。民間人としては、如何に税金が賢く使われているか(Wise Spending)を監視する必要がある。

・御堂筋の本町から心斎橋に掛けて、ずうっと高さ規制50mと決まっていた。何故50mなのだと役人に聞いても、昔から決まっていた、景観のためですからとまともな答えが返ってこない。今は御堂筋の高さ50m規制は無くなり、御堂筋と本町通りの角地の積水ハウスの再開発「セントレジスホテル」は特区を利用して高さ約132mが建てられた。2013年の条例改正で、市が都市計画手続きを済ませて市議会で認められれば、高さ100メートル以上のビルに建て替えることができる。

・役人は梅田の北側にオフィスビルがどんどん建っているので、そんな規制緩和しても空室だらけになってしまうと反対した。本町の三菱UFJの建て替えで、高さ規制突破の建物を建てている。今まで御堂筋の本町、淀屋橋の界隈は住宅を禁止していた。住宅は景観を悪くすると言う理由から。住宅の需要があるかどうかは民間に判断してもらえばよい。今では延床面積の1/3まで住居を認めることになった。容積率を緩和しオフィスの需要が無ければその分を住宅を供給してもらう。この規制緩和で今後御堂筋の古くなったビルの建て替えが相当進んでいく。

・大阪の経済界のお偉方にも責任の一端はある。大阪の街を良くしようと言っていながら、経済界の重鎮は大体芦屋とか西宮に住んでいる。これからは御堂筋に住んでもらって、北の新地で酒を呑んでもらって大いに大阪の活性化に貢献してもらいたい。

・大阪の都構想は、大阪府と大阪市の二重行政を打破しようということから始まった。大阪府と大阪市が同じ力を持っていて、両方で張り合って二重投資を続けている。こんなことでは大阪は絶対に良くならない。大阪府が関空にゲートタワービルを構想すれば、大阪市は負けじと大阪臨港にワールドトレードセンターを構想する。当初100mの高さの予定だったのが、お互いにどんどん高さを競っていき、最後に大阪府がアンテナを立てて256.1mと競り勝った。しかし両方のビルともテナントが集まらず、経営的には破綻している。

・ビルに留まらずいくらでもこんな例は山ほどある。国際競技場も府と市が張り合い2個、大規模図書館も府と市が張り合い2個、コンベンションセンターも府と市が張り合い2個。大学だって立派な大阪府立大があるのに、大阪市立大学がある。何でも2個2個で増えていく。馬鹿じゃないか。

・世界の都市間の競争は本質は一緒。以下に便利に暮らせるか、如何に子育てしやすいか。如何に買い物をし易いか、病院に行きやすいか、公共交通施設を使って移動がしやすいか。レジャー施設は揃っているか。東京の地下鉄網は素晴らしい、世界一だ。どんどん東京メトロと私鉄が繋がり、乗り換えが便利になっている。これに比べて、大阪市営地下鉄は終点だらけ。大阪市営だから、大阪市の末端で路線を止めてしまう。もう少し伸ばせば私鉄に繋がり乗り換えが便利になるのに、大阪市外のことだからと繋げる発想がない。阪急線と繋げる、近鉄線と繋げると考えない。

・大阪府の環状道路もそう。府と市で張り合って40年間環状道路が繋がっていない。東京も東条英機内閣の時に東京府と東京市の二重行政は非効率だと、東京市を解消し東京都を作った。東京都は超長期で都市計画を策定し、40年前、50年前に作った計画が今花開いている。関西国際空港は日本で唯一の24時間空港。これを活かすために関空と梅田を如何に早く鉄道で結ぶかが重要課題。これを大阪市は全く考えていない、丸っきり無関心。何故なら大阪市内の泉佐野のことだからだ。

・梅北の開発は、府と市でお金を出し合って開発することにした。そうるすと大阪市は公有地に自分でビルを建てようと考えだす。そうではない、市の役割は中心部にできるだけ緑を残すこと。世界の都市競争は如何に緑が多いことが重要テーマになっている。緑が多い町に人が集まり、不動産価値が上昇する。

・関空と梅田を繋げる地下鉄は、なにわ筋の下に地下鉄を敷き南海と結ぶ計画を立てた。これにより関空と梅田は直通で41分で結ばれることになる。ただ、これから工事に入るので完成するのは早くて25年後。便利な計画ができても一朝一夕でインフラはできない。だからこそ早く二重行政をやめて、大阪の発展のためには何が重要かを順番を決めて実行することが重要。

・戦前は大阪府の人口の7割~8割が、今の大阪市内に住んでいた。その時だったら大阪市が市内のことだけ考えて入れば、概ねことが足りた。しかし今は違う。広い視点で大阪府全体の利益を考えなければならない。

・大阪府庁は特別会計を入れて約6兆円。大阪市は特別会計を入れて約4兆円。これだけの巨大組織だと合併させるのは本当に大変。しかし役人が一元化して効率よく動くには、二元行政から一元化が避けて通れない。府立病院と市立病院の一本化はまだまとまっていない。府立大学と市立大学の一本化もまとまっていない。大阪には大阪消防本部が43市に分散している。分散させていては強い防災は果たせない。東京のように巨大な防災本部を立上げ、効率よく高度設備を投資することが必要。

・如何に職員の給料が高いか、税金を無駄にしているかは目に余る。この点は東京都もひどい。公務員給料は民間に比べてあまりにも高く、公務員の給料はもっと下げるべき。公務員の人事評価は、5段階のうち5、4、3が99%。2、1の落第評価をすることはない。働かないやつも良い評価をもらえるのが役所。給食調理の職員は、1日1食給食を作り年俸650万円貰える。夏休み、春休みあってだ。これに比べて仕出し弁当やの民間企業給料は300万円以下。ゴミ清掃は環境局で650万円。民間だと300万円。

・自分の在任中に役人の天下り先の75%を減少させた。総額で271億円のカット。天下り先の企業は随意契約で仕事を取っている。随意契約なので高コストとなってしまう。公営住宅でも随契で住宅供給公社が不動産管理業務を独占していた。今まで黙って10万戸の管理業務を貰えた。今は民間会社が半分くらいを受託している。これにより10億円をコストカットできた。民間企業は夜間見回りサービスまで行ってくれる。住宅供給公社も随分変わり、今まではお客さんが来てもパンフレットをただ持って行かせるだけだったのが、今は懇切丁寧に空住戸の説明をしている。

・大阪市では今まで随契が321億円あったが、84%を民間に回した。役所が抱えている仕事を民間に回せばどんどん良くなる。大阪城公園、天王寺公園も民間に儲けてもらって構わないと管理を出したところ、色々なイベントを開催して利益を出している。その利益で木をきちんと切って公園を管理してくれている。

・市営地下鉄の売店も天下り先企業からファミリーマートに替えた。今まで低かった賃料が民間が高い賃料を払ってくれる。2000数百万円だった賃料収入が、入札を実施し2億8000万円で落札した。市役所内の自動販売機も月に3万円しか市に入らなかった収入が、民間に企画させ任せたところ年間4000万円の収入になった。

・市営地下鉄のトイレも汚かったので改修工事に見積取らせたところ40億円掛かり、予算が無くて実施できないというのが役人の回答だった。そんなに金がないのなら諸君の給料カットで捻出するしかないと言ったら、色々なコストカットの提案を出し始め、その後金が足りないとは言わなくなった。

・自分が在任以降で、大阪府で年間400億円、大阪市で年間400億円お金が浮くようになった。浮いたお金の大半は教育に回した。全国学力テストで大阪府はぶっちぎりの最下位。運動能力テストでも最下位。普通勉強が出来ない奴は体育は出来るもんだが、大阪は両方ペケ。これではいけないと、4年間で6倍の教育予算を付けた。

・大阪府トラック協会に毎年10億円の補助金が流れていた。それでいてトラック協会には70億円の積立金がある。医師会、弁護士会の会館には固定資産税が免除されている。この免除を取り消したら、皆一斉に反橋下になっていった。役所が扱っている税金が甘い砂糖。これに群がっているアリは幾らでもいる。大阪都構想を打ち出し住民投票を行ったが、これら既得権を持つ人たちが、自民党、民主党、労働組合関係なく反対に回り、戦いとしては破れてしまった。

 約1時間半の講演でしたが、具体的で歯切れがよく、敵が明確に見える非常に有意義な講演でした。多少の空白時期はあるのでしょうが、いずれ政界に帰ってくるのだと思います。

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