2016年11月20日(日)
短角牛(赤べこ)は最高旨い!
4年前に高知県本山町に行ったツアーで「土佐あかうし」の飼育農家さんを訪ねました。赤毛で人懐っこいあかうしの説明を聞き、その後に町の経営するレストラン「もとやま四季菜館」で土佐あかうしのローストビーフを頂きました。「こんなにローストビーフって美味しいのか!」と感動しながら食べたのを覚えています。さしのたっぷり入った(油だらけの)黒毛和牛の肉と違って、肉本来の旨みが堪能できました。
その後熊本阿蘇のあかうしも人気が出ているとのニュースにも触れ、「やっぱり牛肉の旨さは赤身部分だよな。」と思うようになりました。
11月に秋田の男鹿半島・大館を訪ねるツアーがあり、前日から一人秋田入り。一番の関心事は食事です。秋田で私は何を食べたらよいか?セリがたっぷり入ったきりたんぽ鍋、比内鶏の焼き鳥(特にこりこり食感の砂肝)、ハタハタの味噌焼きとしょっつる鍋、北限の天然フグ...。
そんな中で見つけたのが、短角牛の情報です。短角牛?聞いたことはあるけど詳しい内容は知りません。いわて牛普及推進協会のHPには下記内容が書いてありました。
・年間約1500頭の子牛が生産され、そのうち1300頭が県内で飼育されています。「いわて短角和牛」は生粋のいわて生まれ、いわて育ちです。
・その昔、旧南部藩時代に沿岸と内陸を結ぶ”塩の道”の物資輸送に使われていたのが南部牛。日本短角種(いわて短角和牛)はこの伝統ある南部牛に明治以降輸入されたショートホーン種を交配、品質改良を重ねた末に誕生し、昭和32年には日本固有の肉専用種として認定されました。黒毛和種の毛色が真っ黒なのに対し、日本短角種は赤茶色。おなじみ「赤べこ」の愛称で親しまれてきました。おもに岩手や青森・秋田・北海道などで飼育されています。
・いわて短角和牛の肉質は、脂肪分が少ないヘルシーな赤身肉で、とろけるような霜降りとはまったく違う、かみしめる食感と肉の旨さを味わう牛肉です。赤身が多いから量を食べても飽きがこない旨味が特徴です。
・「いわて短角和牛」は、脂肪分が少ない赤みの高タンパク牛肉です。旨味のもととなるアミノ酸をたっぷり含み、噛むほどに美味しさが広がります。
なるほど赤身肉なんだ、短角牛は。秋田での短角牛はどうかと調べると、秋田県畜産農業協同組合のHPで秋田のブランド牛「かづの牛」が紹介されています。*主に秋田県鹿角市で生産
・「かづの牛」は子育てがとても上手:日本短角種は、平均1年に1頭、子牛を産みます。母牛は乳の出もよく、子を育てる高い能力を持っています。子牛は発育がよく、草をたっぷりと食べて立派な肉牛に成長していくのです。
・かづの牛が大きくなるまで:母牛と一緒の育成期間は、母乳を主体に牧草と若干の濃厚飼料(通常の飼料であるとうもろこし、大豆、油粕等)を与え、肥育期間は飼料の配分を若干変えますが、乾草・サイレージ・稲ワラ・濃厚飼料などをたっぷりと与えます。育成・肥育期間ともホルモン剤などはいっさい使用せず、できる限り自然のままにのんびりと。
・ヘルシー牛肉:黒毛和牛と比べ脂肪分が少ない赤身肉で、低カロリー、高タンパク、鉄分・ミネラル豊富な牛肉です。
・うまさの秘密はアミノ酸:美味しさのもととなるアミノ酸もたっぷりと含まれており、風味のよさが特徴。適度な歯ごたえがあり、噛めば噛むほど牛肉の旨さが堪能できます。またスポーツ持久力の向上に効果のある、L-カルニチンや抗ガン作用やダイエット効果のある共役リノール酸も多く含まれています。
よし、決まった。秋田の夜は短角牛だ!肝心の店はどこにしようかと、仕事もそっちのけでお店探しです。しかしなかなか見つかりません。ようやく見つけたのが「NORICHANG(のりちゃん)」と言うお店です。他にも候補を探そうと思いましたが見つからず、念のため電話で予約を入れておきました。
角館で4時間ほど過ごし、秋田のホテルに着いてから繁華街の川反(かわばた)通りを散策。NORICHANGは川反通りの一番南端にありました。いわゆる肉バル、炭火ワインバルという趣のお店で小洒落た外観です。
その日は土曜日で、6時頃店に入ると大体7割くらいの入り。なかなか繁盛しています。一人なのでカウンター席に通され、目の前には炭火の網焼き台があります。目の前では、次から次とリズミカルに肉を焼いていきます。カウンター上のガラスケースには短角牛のブロック肉が置いてあり、“これぞ赤身肉”とさしの少なさが確認できます。
部位ごとに注文しようと思いましたが、定員さんがお任せ3種盛り(4000円)が良いですよというので、それを注文。10分ほどするとお待ちかねの「短角牛3種盛り」が到着です。サーロイン、肩ロース、内ももの部位だそうです。粒マスタード、きざみわさび、粗塩が付け合わせでついています。ステーキソースでないところも気に入りました。
NORICHANGの焼き台
短角牛3種盛り
三種の中でもサーロインは肉本来の旨みが味わえる絶品でした。黒毛和牛の油の強いサーロインは食べる気はしませんが、短角牛のサーロインは丁度良い油加減です。肩ロースも思っていたより硬さもなく、肉の旨みは十分です。1/4パウンド(約110g)づつ3種なので330g。あっという間に完食してしまいました。クレソンと長ネギの香味サラダも旨かった。店名はいけてませんが、NORICHANGに来て本当によかった。
落ち着いてから店内を見渡すと、20台、30台の若い方が多く、女性の方が目立ちます。7時くらいになるとお店は満席で、予約をしないできたお客さんは入れない状態。
帰り際にとても美味しくて堪能できたと焼き台の人に御礼を言うと、最近は短角牛の人気も出てきて生産量が上がってきている。東京でも麻布十番あたりで短角牛メインのレストランがあると聞いていると教えてくれました。
翌日の地元紙に、秋田県東成瀬村の「赤べこ仙人ファーム」の記事が出ていました。
・横手市の企業等が出資し2013年に設立。現在牛舎2棟で450頭を飼育。村内の飼料用米を与えるなどして、より高品質な肉牛の生産を目指している。村内にある食肉加工センターでパック詰めのビーフシチューやハンバーグに加工する。独自の冷凍システムを採用しており、解凍しても旨みを逃がさない(多分CAS)。県内だけでなく首都圏のレストランにも出荷している。従業員5人のうち、4人は10代、20代。東成瀬村では短角牛を特産品として売り出そうと6次産業化、ブランド化に力を入れている。
東京に戻り短角牛をおさらいしてみると下記情報がありました。
・岩手県田村牧場HP
正式名称は『日本短角種』、和牛のひとつで『短角牛』と呼ばれています。国内和牛流通において年間1%程のシェアしかない、希少性の高いブランド牛です。
塩の道で重い荷を運んでいただけあって、丈夫で病気にも強い特徴があります。自然放牧で交配も出産も人の手を借りず自然のままです。泌乳量が多いショートホーン種の血も入っているので子育ても上手です。野山で青草を食べ、のびのび育ちます。短角牛は一般的に春から秋まで山で育て、冬には山下げして里で育てる『夏山冬里方式』という方法で飼育されますが田村牧場では周年放牧で育てています。
・日本ZOO鑑
毛色は濃赤褐色、和牛としては大型です。メスの体高は132cmで体重590kg前後です。肉質は繊維が粗く、脂肪交雑も黒毛和種に比べて劣ります。日本短角種の最大の特徴は、粗飼料(牧草)の利用性に富み、かつ北日本の気候・風土に適合していることです。また、放牧適性が高く、粗放な放牧でも野草を採食する能力が優れています。性質も温順で、夏期間は放牧し、冬期間はサイレージや乾草の給与でよく、飼育農家にとっては、水田や畑作物の栽培で忙しい夏は山に放牧しておけばよいので、手間がかからないという利点があります。雌牛は産乳量に優れ、子育てがよいのも特徴です。
・ダイヤモンドオンライン 2015.10.7
岩手県の飼育頭数は約4000頭、全国でも6400頭ほどで、和牛全体の1%に満たない。牛肉の価格は一般的に日本格付け協会の基準で、歩留まり(A~C)と色、締まり、霜降りの度合い(1~5の等級がある)で格付けされ、市場の取引価格の基準になる。この等級は黒毛和種を基準とした評価なので、赤身の旨味などは考慮されない。
・その他の情報
従来は脂身が少ないということで等級(A5が最高)が低くなり、高く売れなかった。年々生産頭数が減少してしまった。飼育期間は、24か月から27か月。体格は和牛の中では大きく、成雌で体高130 cm、体重500kg。成雄で140 cm、800kg)。日本全体の和牛肥育頭数が約177万頭。このうち黒毛和牛が94%を占め、2%が阿蘇や高知の褐色和牛。短角牛は1%程度。
これら情報を見ながら、旨い肉なのだからもっと「短角牛」として世の中に知らしめることが必要だと考えました。ほとんどの人が知らないのに、狭い地域同士で競っていても広まるわけがありません。
岩手、秋田、青森の3県で統一ブランドとして短角牛を売り出す。「赤べこ」というかわいらしい別名があるのだから、名称を「赤べこ」に統一するのもよいと思います。共同で広報活動を行い、共同でイベントを開く。共同でレストランへの販売を行い、共同でネット販売を行う。弱者は協同すべきです。
東成瀬村の赤べこ仙人ファームは2013年設立で450頭の牛を飼っています。こういう農業生産法人が新たに40法人もできれば、年間1万頭くらいすぐに増産出荷できます。何よりも輸入の濃厚飼料(トウモロコシ、大豆)に頼らず、里山の牧草地で育てられる(粗厚飼料)というのが良いストーリーです。
牧草地で育てられているのは乳牛だけで、ほとんどの肉牛は狭い牛舎の中で育てられているのが現状です。さし(脂身)を入れることばかりに注力し、不健康な食事で、出荷時には失明してしまう牛も多いそうです。放牧させないのは歩き回ると筋肉が付きすぎて肉が固くなってしまうからと、高知本山町の土佐あかうし生産者から聞きました。
春から雪が降る前までは里山で放牧で育てられる短角牛は、和やかな風景が思い浮かびます。牧草地にいる赤い牛、都会人が見に来る絶好の観光資源にもなります。昼は草を食む赤べこを見ながら癒され、夜は炭火バルで赤べこを喰らう。東北3県の新しい観光スタイルになると思います。
追記:先日、練馬区のレストランで豪州産のステーキランチ(200gで約2000円)を食べたところ、普通に美味しい肉でした。赤身肉で真っ向勝負というのも、海外産との差別化が難しいという危惧は当然あるでしょう。
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