2017年1月20日(金)
商業施設の近未来予測
2017年1月に不動産鑑定協会主催の研修で、商業用不動産について講義がありました。講演タイトルは「商業施設の近未来予測」で、講演者は株式会社ビーエーシー・アーバンプロジェクト代表取締役矢木達也氏でした。大変参考になる内容でしたのでまとめてみました。
1.小売消費と業態トレンド
2014年の小売市場規模は約128兆円。新宿駅界隈だけで約1兆円あり、その内25%が伊勢丹新宿本店が占める。伊勢丹新宿店は化け物ぶりが分かる。小売店舗の売り場面積は年々増加している。一方売上は下がっており、売り場効率は年々落ちている。売上平均は、年間878千円/㎡(月額242千円/坪)。
各業態ごとの売上シェアにも変化がある。
年 度 | 百貨店 | GMS | コンビニ | 食品SM | 個人商店 |
1997年 | 7.5% | 6.7% | 3.5% | 9.9% | 12.3% |
2014年 | 4.0% | 4.9% | 5.3% | 12.6% | 3.8% |
コンビニの賃料負担率は7%程度(一日の売上が70万円の店だと月額賃料149万円、50万円だと月額賃料106万円の計算)。衰退している商店街でもコンビニだと、3万円/坪を出せる可能性がある。単身世帯が1980年は19.8%だったのが、2015年は32.4%。ファミリー世帯が1980年は42.1%だったのが、2015年は26.2%と世帯構造も変化している。
2.インバウンド顧客の状況
インバウンド客の消費額は2015年度は1.4兆円。但し、2016年度は売上減の見込。中国国内のネット販売の影響が大きい。日本で買わなくても日本製・欧米製商品がオンラインショッピングで購入できる。日本全体の少子高齢化の影響穴埋めまでには至らない。
一方、飲食店舗はインバウンド客増加の影響を享受することができる。外食全体では24兆円規模。最近では外食より中食(デパ地下等)が伸びており、2000年が5兆円だったのが、2014年は6.3兆円と5年で+25%売上増加した。
飲食店でも赤坂などの企業接待中心の町では売上が落ちている。家電販売店は売上の落込みが目立つ。2010年を100とすると、2015年は2/3になっている。もっとも2010年は地デジ効果で大型液晶テレビが売れまくり売上が伸びた年でもある。
3.Eコマースの影響
Eコマース(オンラインショッピング)は現状7.3兆円規模であるが、早晩10兆円になるだろう。家電では現状で17%を占めている。最近の売上が伸びている分野は洋服系である。ユニクロは物流を大和ハウスと組み、Eコマースに備えている。3年~5年後には売上比率30%~50%を目指している。そうなると多くのSC(ショッピングセンター)のアンカーテナントになっているユニクロがいなくなるリスクが今後出てくる。
4.ショッピングセンターの勝ち組、負け組
製販一体のユニクロ、ニトリ、イケアが勝ち組であり、それができない企業がどんどん倒されている。これら勝ち組企業が都心はマーケット賃料を出してくるにしても、郊外型SCでは本来もっと負担できるのに売上の6%しか払えない(払いたくない)と強気の交渉に出てくる可能性もある。配分されるべき利益が不動産貸主側から企業側に配分され始めた。
イトーヨーカ堂、ジャスコのようなGMS(大規模小売店舗、General merchandise store)は不振に陥っており、その大きな原因は衣料品売り場に人が全くいないこと。ユニクロとしまむらの売上合計で約1.3兆円。GMS全社の衣料品売上合計を超えてしまっている。ユニクロ、しまむらがいないとB級、C級のSCに成り下がってしまう。
2002年~2007年に大型SCモールが多数作られたが、2008年以降はピークの1/3程度しか新規開発されていない。郊外型SCは車で1時間離れたところまで行ってしまうので、勝ち組、負け組がはっきりしてきている。
日本全体のSC総数3169か所(1人当たり店舗面積0.4㎡、シェア21%、売上高165千円/月・坪)、これに対して米国全体のSC総数約47,000か所(1人当たり店舗面積2.2㎡、シェア55%、売上高100千円/月・坪)。
日本のアウトレット施設は2006年度比で262%売上が増加したが既に飽和状態と言われている。昔はGMSの商業ビルを4階、5階と多層階で建てたが、現在は平屋の路面での回遊性を強調している。
食品スーパーは1万人で1店舗が成り立ち、ホームセンターは5万人で1店舗が成り立つと言われている。日本の小売業売り場平均面積は0.85㎡/人、大型店売り場平均面積は1.3㎡/人。
5.有名商業地域の盛衰
都心部の賃料トレンドは2008年(リーマンショック年)を100とすると、新宿102、渋谷60、銀座62(但し、売上歩合が別にあるので正確ではない)。
新宿で売上が伸びている店はJR東日本のルミネ。賃料は売上×15%の売上歩合である。一方百貨店は売上×40%の売上歩合を取っていた。ルミネの専門店が伸びて、百貨店が衰退している。ルミネは5年の定期借家だが、売上が悪いと退出させられてしまう厳しさがある。
大阪の梅田エリアは完全なオーバーストア状態。新宿地区は448,723㎡(119㎡/千人)に対し、梅田地区は652,195㎡(279㎡/千人)。梅田は2001年度比で売上が80%くらいに下がってしまった。
渋谷地区も芳しくはない。2000年度2800億円が2014年度1700億円に下がり、61.3%(▲38.7%)となっている。昔は渋谷がファッションリーダーだったが、これが青山の路面店に移ってしまった。若者は渋谷にファッショントレンドを求めておらず、渋谷で洋服を買おうとしない。
原宿はファッションよりもスイーツ店に比重が移りつつある。実際の売上よりもフラッグシップストアでブランディングできれば良いと考えて出店している。ブランディングできない街だと衰退が始まってしまう。
鎌倉などの観光地商店街は手堅く売上が伸びている。軽井沢アウトレット、御殿場アウトレット、成田空港内等の非日常型商業施設は売上が堅調なところが多い。
商業ビルの高齢化が進んでおり、1990年以前の施設は全体の38%を占めている。
本当はもっと貴重な話も多数あったのですが、メモが取れたところだけをまとめてみました。業態も地域も業種も、年々変化しているのだと改めて勉強になりました。
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