2010年7月12日(月)

1-コラム 地形・地勢を表す漢字と町名

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

以前神奈川県内の住宅団地を調べていた折、地元の不動産業者さんから「あそこは谷戸(やと)だったから地盤が悪いんだよ。家が傾いたって、売主のディベロッパーと購入者で結構裁判沙汰もあったんだ。」という話を聞きました。「谷戸って何ですか?」と聞くと、「谷間の田んぼだな。泥濘(ぬかるみ)がすごくて、昔は苗を植える時かんじきみたいな下駄を履かないと、ズブズブもぐってしまったと聞いているよ。」と答えてくれました。なるほど、そういう土地を住宅団地にすれば、問題が起こるのは当然。昔何だったかをよく確認して土地を買えとは、こういうことを言うのかと納得したものです。

では、地形、地勢を表す漢字にはどういうものがあるでしょうか。良く知られている漢字は、山、丘、岡、峰、谷、川、河、野、原、浜、瀬、湾、崎等があります。これ以外の地形、地勢を表す漢字を調べてみました。

「久保、窪」は大久保(東京都新宿区)、荻窪(東京都杉並区)などがありますが、正に窪地のことで谷にある土地を言います。「沢」もほぼ同義語で、東京都世田谷区には奥沢、北沢、代沢、野沢、深沢など沢を使った地名が多数あります。

「日向(ひなた)」は、小日向(東京都文京区)がありますが、旧町合併前は小日向台が中心で南向き高台にありました。陽(ひ)を向くと言うことから日向になり、昔からの地名で残っている所は太陽の日が差す高台に多いと思われます。

「湊(みなと)」は湊(東京都中央区)、湊(大阪市浪速区)、湊川(兵庫県)などがあります。湊は港湾のことで、古くは港湾施設のうち水上部分を「港」と呼び、陸上部分を「湊」と呼びました。

「津」は、津(三重県)、大津(滋賀県)、中津(大阪市北区)などがありますが、船着き場、渡し場という意味です。琵琶湖のほとりの大津には、古来大きな船着き場があったのでしょう。

「浦」は、浦賀、三浦(神奈川県)、浦和(埼玉県)、浦添(沖縄県)などの地名があり、海、湖の陸地に入り組んだところ(入り江)を言います。入り組んだ陸地であれば台風が来ても波除になり、昔から自然の良港になっています。

「洲」の付く地名は、八重洲(東京都中央区)、大洲(愛媛県)、中洲(福岡市博多区)などがあります。洲とは、水底に土砂が溜まって地上に現れた土地を言います。ちなみに八重洲は江戸末期に活躍したオランダ人のヤン・ヨーステンから来ているので、正確な洲とはちょっと違うようです。

「日比(ひび)」は、日比谷(東京都千代田区)がすぐ思い浮かびますが、浅瀬の海で海苔や貝が付着するために差し込んだ枝を言ったそうです。徳川家康が江戸に来た1590年当時の日比谷地区は、半島であった江戸前島(今の新橋、汐留)と江戸城の高台に挟まれた浅瀬の海でした。当時の浅瀬には無数の日比(海に突き刺した棒、枝)が立っていたので、日比谷の地名が付いたと言われています。その後1603年に神田地区の山の土砂を大量に埋め立てて、今のような平地を作りだしたのです。

「河岸(かし)」は、水運が中心だった江戸時代までは各地にありましたが、人や物を上げ下ろしするかわぎしを言います。またかわぎしに立つ市場を言います。河岸として栄えた場所としては、河川の合流や分岐点、陸の主要街道との交差点、城下町や寺社の門前町です。東武東上線川越駅の隣接に「新河岸駅」があり、ここは川越の台所を支えた市場があったところです。

東京都文京区の千川通りは、元々は小石川(昔の漢字で礫川)と呼ばれる川があったところです。大塚、小石川、千石、白山、春日等の谷間にあり、無数の川(千の川)が流れ込み、小石がゴロゴロしていた土地だったところなのでしょう。

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