2010年7月17日(土)

5-5 建物遵法性違反と既存不適格

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 現在の建築基準法は容積率が定められていますので、新しく建物を建築する場合、必ず指定容積率の範囲内で設計が行われます。しかし、この指定容積率の制限は昔からあった制度ではなく、昭和44年に新しく導入されたものです。それ以前は指定容積率で規制するのではなく、前面道路幅員による道路斜線(商業地域であれば、幅員×1.5倍の斜線)で建物の規制を掛けていました。

 神田、八重洲辺りの古いビルを調べると、容積率が法定600%なのに、900%以上使われているビルに出くわします。それらは違法に建てたものではなく、当時の法規制に適合した問題の無い建物なのです。このように以前の法律では適法だったものが、その後の法律改正で適法でなくなった場合を「既存不適格」と言います。ちょっと下手な表現ですが、「旧法適合建築物」とか他の言い回しができなかったのでしょうかね。

 それでは、昔の法令にも今の法令にも違反している建物は何と呼ばれるでしょうか。以前は違反建築物でしたが、最近は「遵法性違反建物」などと極悪人のごとく呼ばれています。何故こうも厳しく違反が咎められるようになったかというと、リートや私募ファンドが、信託受益権を使って購入することが増加してきたためです。信託銀行が信託を受けるには、ちょっとでも変なところ(法令違反)があったら受託できないと言い始めたので、それ以降は重箱の隅を突っついて、法令違反がないかチェックし始めたのです。

 モルガンスタンレー、ゴールドマンサックスなどの外資系企業が、ファンドを使って不動産をガンガン買い始めたのが平成14年頃からですが、最初の頃は多少の違反があっても信託銀行は信託を受けてくれました。建物用途違反があっても、容積率違反があっても、無断増築があってもです。これが平成17年頃から金融庁の指導が、ノンリコースレンダー、信託銀行に入り始め、違法物件には融資しない、信託を受託しないと言う流れになっていきました。

 それでは、どのような遵法性違反があるのでしょうか。

①   建物用途違反:多いのは1階にある事務所を店舗に変更したケースです。100㎡以内の面積の用途変更なら用途変更申請しなくても大丈夫ですが、100㎡以上だと変更申請が必要です。これがかなりの確率で用途変更申請していません。住宅を事務所に変更した場合は変更申請要りませんが、事務所を住宅に変更する場合は用途変更が必要です。

②   容積率オーバー、建ぺい率オーバー:特に多いのが、容積率オーバーです。床を増やせばその分貸せる所が増え収入も上がるので、「ちょっと床を増やしてしまえ」と言うことが以前は良く行われていました。大阪に行くと一段と増え、容積率オーバー物件は至る所で目にします。普通はバルコニー部分に壁を作って居室にしてしまったと言うレベルですが、悪質なのは建築確認取得後、勝手に3階建てを5階にしてしまうという例もあります。無断増築とセット技ですね。

③   消防法違反:平成13年9月に起きた新宿歌舞伎町の火災(44人死亡)以来、建物所有者が負う責任は一段と重くなりました。例えテナントが避難通路を塞いだり、物をおいて避難しづらくしてしまった場合でも、建物所有者は普段からテナントに消防法を守らせる義務を負っており、それを怠った場合は所有者にも責任があるとされました。人身に関わることですので、消防法違反については本当に些細なことでも、信託銀行、レンダーとも必ず遵守することを要求してきます。

④   看板などの工作物:従来は建物については気にしても、袖看板、屋上公告看板は付属物だからとほとんど気にしていませんでした。従って、屋上公告物は建築確認申請を出していない物もたくさんあります。袖看板についても、建築確認申請は出しても検査済証は取っていないというのがたくさんあります。法令上は、袖看板に不燃物を要求しているのが、それでは高く付くのでアクリル板等の安い材料に途中で替えてしまうことが良くありました。結果、検査済までは取らなかったようです。

⑤   検査済証の不交付:建築確認を取っていない建物はまず無いのですが、検査済証を取っていないビルはたくさんあります。検査済証がなくても銀行の融資には問題がなかったため、あまり気にしなかった所有者も大勢います。また悪意で取らないケースは、無断増築工事を行うことが多々あります。法令上全く問題が無いのに、ただ単に検査済証を取らなかったケースの救済策が現段階ありません。これも建築確認審査機関が、例え建築後何年経っても問題が無ければ検査済証と同等の書類を交付するなどの救済措置が望まれます(自治体によっては、後から検査済証を交付してくれるところもあるがほとんどが対応してくれない)。

⑥   その他建築基準法違反:道路斜線制限に建物が引っかかっている。

 大勢の投資家を募るリートや多額の資金を募る不動産証券化においては、法令厳守は必要なことですが、最近はこれが個人投資家が買うような小型不動産にまで、厳格な法令遵守が言われております。例えばファイナンスを行う銀行が、検査済証が無いだけの理由で融資を断るということも多発しています。ルールを厳しくするのであれば、是正可能なものについては救済措置を講ずることを強く望んでいます。

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