2010年7月17日(土)

3-5 マンションの建替え事業

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 国土交通省の推計によると、大都市部を中心に毎年約20万戸のペースでマンションの供給が続いており、平成19年末時点のストック総数は約528万戸、約1,300万人が居住しているそうです。その中で、築30年を越えるストックは約63万戸、新耐震基準策定(昭和56年)以前に供給されたストックは約106万戸だそうです。平成22年度末だと、上記の戸数に50万戸くらい加算する数字になります。

大体築40年以上くらい経ってくると、皆さん建て替えを検討し始めるのではないでしょうか。築年で40年と言えば、昭和45年当時の分譲ですので、耐震性能、設備の老朽化を考えると、居住者の方も建替えを検討することになるでしょう。

 それでは分譲マンションの建替え事業は上手くいくでしょうか。これだけ分譲マンションがあるに関わらず、商業ベースで成功した物は数少ないのが現状です。港区赤坂での  マンションの建替え事業に従事された藤和不動産OBの二木さん(現公共建物㈱顧問)に、建替え事業の難しさを教えてもらいました。

藤和不動産HP抜粋「藤和赤坂アパートメント(東京都・港区)」

昭和34年に日本住宅公団が分譲した総戸数60戸の「赤坂アパート」を等価交換方式により建替え。平成元年に管理組合よりデベロッパー候補として選定された当社は、建替え常任委員会とともに根気強く合意形成に取り組み、平成6年の建替え決議の成立に結びつけた。翌平成7年には最終事業計画案が承認され、平成11年に総戸数110戸の「藤和赤坂アパートメント」が完成した。

・赤坂アパートの場合は、建替え前に比べて建替え後には容積率を増やせるボーナスがあった。これでかなりの部分、建替えの建築費をまかなうことができた。建替えても容積が増えない場合、逆に既存不的確で容積率が減ってしまう場合は、相当ハードルが高くなる。

・ほとんどの方が建替えに賛成であっても、数人の反対者の方は必ずいる。区分所有法が80%の同意で建替えが決議できるとなっていても、実務上は多数決では決定できない。最後の1人まで粘り強く、合意してもらうしかない。

・赤坂アパートで住人の方が、積極的に建て替えに賛同してくれた要因の一つに、場所柄新築マンションとなれば資産価値が大幅に上がることを理解していたため。中古市場での流通価格に比べれば、建替え後に戻ってくる新築住宅の価値が大きく上昇するため、ほとんどの方が積極的に賛成してくれた。

・実務で厄介なのは、担保権者の同意。担保に取っている建物が無くなってしまうため、簡単には担保権者(銀行、ノンバンク)は同意してくれない。

・建替えの相談が藤和不動産に寄せられてから、建替えの同意が得られるまでに約5年。完成までは足掛け10年掛った。藤和不動産としても勉強のつもりで建て替え事業に協力しており、採算性は度外視している部分はある。正直ベースでいえば、土地を買っての分譲事業10棟分くらいのパワーがいる。

建替えの延床面積のボーナス、都心部と言う立地など、かなり恵まれた建替え事業であっても、ディベロッパーが参画するには相当の覚悟が必要なようです。それでは、延床面積も特段増えない、場所もごく普通の住宅地というような案件は建替え事業が可能でしょうか。答えは相当厳しいと言わざるを得ません。唯一支えになるのが、住宅金融支援機構の融資制度の利用ができるくらいでしょうか。

 それでは築年数40年、50年のマンションは現実的にどうするのが良いでしょうか。答えはいろいろあるでしょうが、管理を徹底して修繕、補修を行い、使えるところまで使っていく。その上で、居住するのに適さなくなった段階(耐震性能が劣り危険がある、給水管が錆びついてまともな水が供給されない、スラム化して好ましくない住人が多数住んでいる)で、マンションディベロッパーに売却するというのも有力な解決策と思います。建て替えではなく、共同売却で金銭に換えるという方法です。マンションディベロッパーは、「更地価格-解体費」で買取価格をすぐに提示できます。その時こそ反対者はあっても、区分所有法、管理規約に則り共同売却を図るべきと考えます。

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