パン屋さんの秘密

都市鑑定アドバイザリー（株） 不動産鑑定士　田中祥司

　２０年近く前、新宿の不動産会社に勤めている時に、毎日「北欧」のパンを買ってくる同僚の女の子がいました。その子から「北欧は小田急がやってるんですよ」と教えてもらいました。へえー、パン屋ってわざわざどこが経営しているか隠すもんなんだと、その時知りました。「サンジェルマンは東急ですからね」とついでに教えてもらいました。

　現在でもベーカリー業界は、この親元を隠す“ブラインド戦略”を取っているようです。どんな会社が親会社かチェックしてみました。

①ヴィド・フランス

　業界最大手の山崎製パンが経営と言うのは有名です。特段ここのパンじゃなきゃと騒ぐ人はいないブランドですが、駅ビルなどの庶民的な商業ビルに多く出店しています。札幌本社の日糧製パンも山崎製パンの資本が２９％入っていて、いつの間にか系列（持分法適用会社）になっています。

②サンジェルマン

　元々は東急デパート系列でしたが、２００２年にＪＴ（日本たばこ）にＭ＆Ａされました。ＪＴは冷凍食品の加ト吉もＭ＆Ａし、現在社名をテーブルマークに変更しています。サンジェルマンは現在テーブルマークの子会社になっています。メゾンカイザー、ドゥマゴ、レフボンもサンジェルマンのブランドの一つになっています。

③北欧

　ＨＰを見ると１９７９年に札幌で創業し、１９８８年に小田急電鉄と合併会社「北欧トーキョー」を設立しています。また関西地区では、南海電鉄が北欧の技術主導で「北欧フードサービス」を立ち上げています。北欧フードサービスは２００１年にほっかほっか亭を展開する㈱ハークスレイがＭ＆Ａしています。

④ダロワイヨ

　チョコレートを練り込んだマーブルが美味しかったのですが、最近はしっとり感が無くなったような気がしています（と言うかＨＰの商品に出ていなかった）。このダロワイヨはペコちゃんの不二家の系列です。銀座通りの銀座２丁目にあったお店は、不二家の経営不振の影響で売却され、ダロワイヨは銀座５丁目の旧不二家店に移って行きました。ちなみに銀座２丁目のビルを買ったのはゴールドマンサックスで、今のところ売り抜けに失敗している模様です。不二家のスポンサーになったのがヤマザキですから、今ではヤマザキの孫くらいの感じでしょうか。

⑤ＰＡＵＬ

　ＰＡＵＬは、レアル・パスコ・ベーカリーズの経営となっています。パスコと言えば、敷島製パンです。会社沿革を見ると、２０００年にパスコ名古屋㈱をレアル・パスコ・ベーカリーズに社名変更しています。Ｆａｌａｒもレアル・パスコのブランドの一つになっています。

⑥ＤＯＮＱ（ドンク）とＪＯＨＡＮ（ジョアン）

　ドンクは１９０５年創業の老舗で、２０１０年期では３２４億円の売上のあるパン屋さんの大企業です。ジョアンもドンクのブランドの一つです。どうりで両方同じミニクロワッサンを売っているわけです。不確かな情報によると、ドンクが三越に出店する折、三越がもう少し高級そうなブランドが良いなと言ったので、ドンクがジョアンのブランドを作ったとか（信用度３０％）。

⑦アンデルセン

　高木俊介さんが広島で創業したタカキベーカリーの系列です（と言うかアンデルセングループ）。珍しく大企業傘下にない大手ベーカリーです。元々高木社長がコペンハーゲンに行った折、ちょっと甘いデニッシュパンを食べたところ、こんな美味しいパンは無い。是非日本で作りたいということで、アンデルセンのデニッシュペストリーを作ったそうです（１９５９年）。そのアンデルセンがデンマークに逆進出し、コペンハーゲン・チボリ公園と住宅街に２軒店を出しました（２００８年）。そのお店が現地のデンマーク人にも人気になり、焼き上がる時間を待って行列ができるそうです。ヨーロッパの日系社会でもたいへんな話題の人気店だそうです（情報提供：三菱商事斎藤正巳さん）。 

⑧メゾンカイザー

　銀座キムラヤの長男の木村周一郎氏が立ち上げたブランドが「メゾンカイザー」です。数年前までは銀座松屋の地下鉄出口に出店し、結構行列を作っていました（現在は松屋地下１階で営業）。ここのＨＰでは、サンジェルマンは技術提携先と出ていますが、サンジェルマンでは自社のブランドの一つとして扱っています。タバコ屋さん（ＪＴ）と色々な葛藤があるのでしょうか。ちなみに銀座キムラヤは和光ビル隣で今もアンパンを売りまくっています。ただ不動産の権利（借地権付建物）は、数年前に和光に売却しているので、現在はテナントになるはずです。