2010年8月24日(火)

4-4 アスベスト除去 

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 アスベストがとても怖いものだと思い知らされたのは、1980年にアメリカの映画俳優スティーブ・マックィーンの死因がアスベストによる中皮腫(胸膜の癌)だと報道されてからでしょうか。映画「大脱走」で見せた不屈の男が、ただの建材だと思っていたアスベストに倒されてしまった、そう思った方も多いでしょう。

 アスベストは自然由来の物であり、私たちが小学校の理科の実験で使った石綿(いしわた)のことです。専門的に言うと、繊維状けい酸塩鉱物のことで、蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した天然の鉱石です。石綿の繊維1本の細さは大体髪の毛の5,000分の1程度の細さで、浮遊粉塵になりやすい性質があります。

 建築の世界では、燃えにくい性質があり安価であることから、鉄骨の耐火被覆材や断熱材として使われました。鉄は変形も容易で価格も安い優れた材料ですが、熱に弱く(比較的低い温度で変形してしまう)、鉄骨材の耐火被覆をするのにアスベストを1970年頃から使い始めました。また、飛散性ですが建材のPタイル、石綿スレート、石綿セメントサイディング等にも不燃のために、少量を混ぜて使われてきました。

 その後の研究で分かったことは、空中に飛散したアスベスト繊維を肺に吸入すると、約20年から40年の潜伏期間を経た後に、肺癌や中皮腫の病気を引き起こす確率が高いと言うことです。こうして我国でも、1975年9月に吹き付けアスベストの使用が禁止されました。さらに2004年までに石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止されました。

 環境省の予測では、建築物の解体によるアスベストの排出量が2020年から2040年頃がピークで、年間10万トン前後のアスベストが排出されると見込んでいます。建物解体に際しては、「大気汚染防止法」の特定粉塵排出作業、石綿障害予防規則に係る措置等、及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の特別管理産業廃棄物として適用がされます。

 アスベストの被覆されているビルの解体作業に当たっては、作業員がアスベスト粉塵を吸いこまないように細心の注意がなされます。作業員は全員が毒ガス対策班が被るような防塵マスクを付けて作業し、アスベストの粉塵が外部に漏れないように常に空気清浄をするなどの必要があります。従って、アスベストが被覆されたビル解体に当たっては、解体作業の長期化と大幅な解体費上昇となりました。 

 アスベスト対策として現在一般的な工法は「除去」「封じ込め」「囲い込み」の三つの施工方法です。

 「除去」は文字通り既存の吹き付けアスベストを下地から完全に撤去する工法で、上記で述べた建物の解体作業と同様に、撤去時の粉塵被害と作業者への影響が無いよう、作業エリアの完全遮断を行う等、その施工方法や作業手順に厳しい管理が必要です。 

 「封じ込め」は既存の吹き付けアスベストに対して凝結材を直接吹きかける事でアスベストの剥離と粉塵飛散を防止する工法です。「除去」より施工は容易で工事期間も短くてすむのでコストも比較的安価で済みます。しかし、将来的には解体撤去する必要性がある事は変わりないので期間の長短はあるにせよ暫定的な処理と言えます。またこの工法は人目に付く場所では安心感という意味で難点があり採用は難しい場合もあります。 

 「囲い込み」は既存の吹き付けアスベストをそのままの状態で残し、この部分が使用空間に露出しないように他の種類の材料のボードで完全に覆ってしまう工法です。「除去」よりは施工的に容易ですが、施工部位によっては完全に覆う事が難しく、いつかは解体撤去する必要がある事は同様です。

 その他の工法では、特殊な圧力水を吹きかけて湿らせてから撤去する事で、作業時のアスベストの粉塵を無くす工法なども開発されています。

*監修加筆を五洋建設㈱山田茂樹さんにお願いしました。

このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

最新記事

不動産業界コラム

過去の記事

ページの先頭に戻る↑