2010年10月15日(金)

究極の田んぼ

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 “耕さず肥料も農薬も使わない農業“、このような農業を実践している岩澤信夫さんが書いた本「究極の田んぼ」(日本経済新聞出版社)は、今後の日本の農業の方向性を示す大変面白いものでした。

従来の米作り(慣行農法)は、

・  冬場に田を乾燥させて、春先に田を掘り起こし、柔らかいフカフカの土にする。こうすることで稲の根が生えやすくなる。ただ、稲以外の雑草も生えやすくなるので、雑草が生えないように除草剤を撒くことになる。

・  米を食べるコクゾウムシ、カメムシ、イナゴ等の被害を無くすため、防虫剤を散布する。本来こういう虫を食べてくれる虫(益虫)なども殺してしまうため、多くの農薬を撒かなければならない。しかし結果的に、田んぼを生活圏としていた、鳥類、魚、虫が住めない場所になってしまった。

・  米の生産には、適正な肥料(窒素、リン、カリウム)が必要であるが、外国から輸入される肥料に依存し、これを農協ルートで仕入れて撒いている。

これに対して岩澤さん(1932年生まれ)たちが実践している生産方法は

・  田んぼは耕さない。岩澤さんたちはこれを“不耕起栽培”と名付ける。固い土で育てることで、稲はがっしりした根を張ろうとし、エチレンと言う成長ホルモンを多く出し、病気、冷害、虫害にも強くなる。元々、冷害にも強い稲を育てるにはどうするか考えて辿り着いたのが、不耕起栽培。結果的には稲の数(分げつ力)も増えて、慣行農法より多収穫にもなった。

・  冬場でも田んぼに水を入れっぱなしにする(冬期湛水:とうきたんすい)。田んぼを乾燥させないことで、大量の糸ミミズが発生する。糸ミミズは土を食べて糞を排泄するが、数年でこの排泄物は数センチの厚さに達する。耕していない上に、ミミズの排泄物が堆積し、水も張っていることで雑草がほとんど出なくなる。これで除草剤を撒かなくて済む。また、ミミズの排泄物の中に窒素等の栄養素が含まれるため、肥料を撒く必要が無くなる。

ただ、ここまで辿り着くのに30年以上の年月が必要だったそうです。

・  固い土でも苗が植えられる田植え機の開発が大変だった(井関農機が開発)。

・  農家にこの方法を信じてやってもらうのに時間が掛かった。農家は長年引き継がれてきた栽培方法があり、今までと全く違う作り方、特に耕さなくて良いということに手抜きのように思われ、拒絶反応を示した。

・  集団で農地は管理されているので、1箇所だけ水を冬場に入れたいと言っても協力は得られなかった。農協は、耕運機も肥料・農薬も売れなくなるこの農法に対し敵対視した。

 結果的に、不耕起、冬期湛水で作られた田んぼは、農薬が入らない自然の状態になり、ドジョウ、タニシ、水生生物、鳥類が数多く見られる昔ながらの状態に戻ったそうです。

 良いことだらけに見えるこの農法が爆発的に広がっていないということは、どこかで欠点があるのかも知れませんが、安全なお米を食べたい消費者には強く訴えかけるものがあります。“不耕起・冬期湛水+大規模農法“で生産コストも削減できれば、日本の米作りを変えられるのかも知れません。

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