2010年10月16日(土)

不耕起・冬期湛水による田んぼの浄化作用

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 前回に続いて、不耕起・冬期湛水の米作りを実践している岩澤信夫さんが書いた本「究極の田んぼ」(日本経済新聞出版社)の中で書いてあった、田んぼの浄化作用について簡単にまとめてみます。

 米を刈り取った後の稲ワラは、細かく砕かれた後、田んぼの土の中に埋められています。田んぼの土を柔らかくしたい、少しでも肥料になればということでしょうが、体よく田んぼに捨てているとも言えます。ワラは発酵すると有害ガス(メタンガス)を発生させ、稲に悪い影響を与えるだけでなく、CO2の何十倍ものオゾン破壊を引き起こしてしまうそうです。

 また、畜産業の問題点として、下記の点が問題提議されていました。

・牛などの家畜についても輸入飼料が大量に与えられている。また、狭い牛舎でも病気にならないように大量のホルモン剤が与えられている。

・このような化学薬品が入った家畜の糞を集めて有機肥料として畑に還元しても、本当に安全なものとは言えない。農林水産省の推奨する有機肥料のオーガニック野菜は、実体は害がないとは言い切れない。

 現在田んぼに捨てているだけの稲ワラは、全量バイオエタノールの原料にする。無理やり有機肥料にしている家畜の糞尿は、発酵させてバイオガスに変換する。こういう前向きな技術開発に、政策資金を集中投下して欲しいものです。

 さて本題ですが、水を浄化するには、微生物、植物プランクトンの働きが大きいのだそうです。微生物はバクテリアや有害菌を食べます。植物プランクトンの珪藻(けいそう)類は、光合成をして酸素を吐き出し、水中の中で動物が住める環境を提供します。湖沼の汚れの原因となっている窒素、リンがあれば、これらを取り込んで、より活発に活動します。またタニシなどの貝類も水を浄化する力があります。このように生物の力で水を綺麗にする方法を、「緩速ろ過」と呼びます。

 岩澤さんたちが提唱する農薬を使わない冬期湛水の田んぼは、まさに上記の水の浄化作用「緩速ろ過」を行っていることになります。田の面積の単位は、10アール(1000㎡、300坪、1反)が基本ですが、10アールの水田には年間5000トンの水の浄化作用があるそうです。

 著書では、日本一汚い湖と言われている印旛沼が例で出ています。印旛沼は千葉県の水道水供給源になっていて、140万人の人たちが水道水として使っています。印旛沼の水量は約2000万トン。この周囲には、6000haの田んぼがあります。全てを冬期湛水の田んぼにして、水浄化施設にすると、5000トン/10アール×10×6000ha=3億トンの浄化作用があります。従って、3億トン÷印旛沼の水量2000万トン=15回。1年間に15回、印旛沼の水が入れ替わる計算になると言うのです。

 そもそも印旛沼の汚染の原因の一番は、農業廃水に含まれる農薬、余分な窒素、リン等なのですから、これが湖に入り込まない上、緩速ろ過作用で水が浄水される。これが実現し、透明できれいな印旛沼が戻ってきたら、千葉県の人はどんなに喜ばしいことか。

 他にも汚染で水遊びが出来なくなってしまった湖沼はいくらでもあります。東京近郊でも、霞ヶ浦、牛久沼、手賀沼、彩湖等々。これらの水がきれいになって、今以上に安心な水が飲める。昆虫、動植物が豊富で、身近な観光地に復活できれば、確実に我々の豊かさが増すことになります。

このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

最新記事

不動産業界コラム

過去の記事

ページの先頭に戻る↑