2010年11月29日(月)

栃木県茂木(もてぎ)町の挑戦 落ち葉拾いで高齢者が元気になる!

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 爺ちゃん、婆ちゃんが山に入って落ち葉を集め、これを町が運営する有機堆肥(たいひ)センターに持って行くと、1袋400円で買ってもらえる。1日平均20袋くらい出荷できるので、原価0で手取り収入8000円!こうして高齢者が山で活動することにより、茂木(もてぎ)町では高齢者比率栃木県一なのに寝たきり老人は0、一人当たり医療費では一番低い金額を誇っているそうです。

 運動して、健康になれて、お金がもらえる。また、荒地同然だった里山が人の手が入ることできれいにできる。正に良いこと尽くめです。落ち葉拾いを始めた1週間目は体が痛くて文句ばかり。2週間目は体が慣れてきて愚痴は収まる。3週間目は落ち葉がお札に見えてくる。後述の茂木町矢野課長の名言ですが、見事なプラスの循環活動です。

 茂木町は栃木県の南西の端、茨城県と接している自然豊かな山村です。関東の四万十川と言われるほどの清流「那珂川」が流れ、11月、12月は産卵のために戻ってきた鮭が溯上してきます。

 茂木町の農業を元気にしているキーワードが、有機肥料の堆肥を作っている「美土里(みどり)堆肥」です。都市農村交流仕掛け人の大越貴之さん企画の茂木ツアーが11月28日にあり、これに参加して施設を見学させて頂きました。美土里堆肥を作っているのが、町で作った有機物リサイクルセンター「美土里館」です。所長の矢野さん(茂木町環境課課長)に説明をして頂きましたが、漫談のように笑わせてくれて、分かり易くて為になる、達人技の解説でした。

 茂木町の美土里堆肥は、家庭の生ごみ、山の落ち葉、牛の糞尿、米のもみ殻、木のおがくずの5種類の原料を混ぜ合わせ、発酵させて作っています。できた堆肥は、臭いが無いさらさらの肥料となります。堆肥成分は、窒素0.6%、リン0.5%、カリ0.6%と理想的(らしい)。

 土は窒素、リン、カリの三大栄養素だけでなく、何万種類の微生物、バクテリアが活動することで、はじめて良い土が生まれます。化学肥料に頼りすぎて微生物、バクテリアが極度に少なくなってしまった田畑を、微生物一杯の有機肥料を撒くことで健康な状態に戻す。バクテリア、微生物の活動があって、植物の根は土中の養分を充分吸収する。こうしてできた野菜は、甘みの強い本来の味を発揮できるのだそうです。美土里堆肥は1トン5000円で農家に販売していますが、最近は隣町からも評判を聞き付け、堆肥を買いに来る農家も多いとのこと。

 家庭の生ゴミは、燃やせばただの灰ですが(燃やすのに無駄なエネルギーも使うし)、堆肥には有益な成分を多数含んでいます。落ち葉(腐葉土)は、煙草の葉作りが盛んだった茂木には伝統的肥料で、肥料を取るための広葉樹が多数残っていました(最近は使い道が無く放置状態だった)。牛の糞尿は10年くらい前から産業廃棄物とみなされ、畜産農家が処理に困っていました。現在、トンあたり800円~1000円の処理費をもらって、堆肥センターで処理しています。米のもみ殻も農家は処理に困っており、これは無料で農家から受け入れています。もみ殻を炭状にした薫炭(くんたん)にすれば、より微生物の力を発揮できる土に戻せるそうです。まさに使い道が無い邪魔物を集めて作っている、有機の堆肥なのです。

 牛の糞尿を扱っているので、さぞかしくさい臭いが漂っていると思いましたが、堆肥センターは全く嫌なにおいがしません。これは、おがくずのお陰だそうです。おがくずをさっと撒くだけで、牛の糞の臭いを取り除いてしまうというのです。牧場の牛の糞尿は、そのままにしておくと土に染み込み、地下水を汚染してしまうので、産業廃棄物となるのは仕方が無いことでした。

 日本農業はリン、カリの化学肥料の大半を輸入に頼っている危うい状況です。リン鉱石の40%近くを中国の輸入に頼っている現状では、早晩第2のレアアースとして中国に首根っこを掴まれることだって、充分あり得ます。自分達の周りにある今まで捨てていた原料で、微生物一杯の有機肥料を作る茂木町美土里館の試みは、是非他の自治体も見習って欲しいと思います。

追記1)「月間地域づくり」平成21年6月特集の「バイオマス利活用による循環型地域づくり」という題名で、茂木町矢野課長の論文が掲載されています。分かり易く書いてありますので、是非ご一読頂ければと思います。 有機物リサイクルセンターを核にした循環型社会の構築  ―森と農家、町を元気にする「美土里野菜」プロジェクト―  茂木町 環境課長 矢野健司 http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/book/monthly/0906/html/f03.htm

追記2)大越さんのツアーでは、「体験落ち葉拾い」がメニューにありました。ほうきでさっさと枯葉を集めるイメージでしたが、これが結構大変。傾斜のある山に登り、斜面の中で熊手の竹ほうきで落ち葉を集めるのです。80cm角の袋に落ち葉を詰めるのですが、1袋20kgの重さにしなければならず、作るのも大変。ぎゅうぎゅうに押し込んでも「こんなんでは町が受け取ってくれない」とまだまだ落ち葉を詰める重労働です。斜面ですべって落ちそうになるし、言うほど楽な作業ではありませんでした。でも70歳を超える皆さんは、こういう斜面でせっせと作業を進められ、大したものだと感心しました。

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