2012年2月7日(火)
頑張っている農業ビジネス
アカデミック会のアルカイダを自称する慶応大学の金子勝教授。その金子勝先生が書いた本、「食から立て直す旅-大地発の地域再生」(岩波書店)を読みました。年々衰退していく地方都市、農山村の現状を訴えながら、その状況下でも努力して何とか地元を活性化させようとしている地域、人々の奮闘が書いてあります。その中のいくつかの話をピックアップしてみます。
1.徳島県上勝町 葉っぱビジネスでお婆ちゃんが活躍
上勝町は徳島駅から車で50分ほどの山村。人口約2100人で、高齢者比率は50%近く、四国で一番小さい町です。このハンディキャップ一杯の町を元気にしている立役者が、横石知二さんです。
その横石さんが、大阪のある日本料理屋で皿に添えられた妻物(つまもの:日本料理に添えられる季節の花や葉)にきれいと喜ぶ女性達を見て、こう閃いたそうです。“上勝町の山の中には、料理に彩を添える紅葉や花が無尽蔵にある。これを都会の料理屋さんに届けるビジネスなら、重労働では無いので上勝町のおばあちゃん達でも出来るのではないか。”
こうして出来たのが第三セクターの株式会社いろどり(彩)。扱う季節の葉っぱ物は、300種類以上。どんな妻物がどれだけ欲しいか、横石さんがパソコンで伝達。お婆ちゃん達は、慣れた手付きでパソコン画面を見て、自分がどれだけ届けるか受注するのだそうです。60歳以上の女性が200人くらい参加し、全体で3億円くらいの売上。1人平均150万円、元手0ですから、素晴らしい稼ぎっぷりです。
2.大分県日田市大山町「木の花ガルテン」
日田市は九州の真ん中にあり、大山町はその中でも山深い小さな町。その大山農協(JA)が業界では有名な存在だそうです。組合員の1人当たり平均農地が40アール(4反、1200坪)、かつ山間部と言うハンディキャップ。それでも色々な農業にチャレンジして成功を収めています。
1961年に大山農協が山間部でも作れる梅、栗を奨励。上手く行きつつも競争が激しくなると、1973年からきのこ栽培を奨励。エノキダケはまだ珍しく、きのこ事業が成功。その後もハーブ事業、ゆず事業も軌道に乗る。同時に農産物を加工して、加工品も一年中出荷できるようになりました。
大山農協のリーダーが示した思想が、耕地面積の少ない大山は大規模農業には向かない。少量でも優れたものをつくって行こうという考えでした。すぐれた農産物をつくるためには、健康で力のある土づくりをしなければいけない。そのために優れた堆肥をおがくずで作りました。この有機肥料は”養土源”と名づけ、町中の畑で使っています。優れた土は農薬を減らすことができ、それが大山町の競争力を高めました。
1990年には、JA自ら運営する「木の花ガルテン」をオープン。道の駅とは比べ物にならない大規模のファーマーズ・マーケットとして運営しています。日田市に2店舗出してから次々と出店。現在は、福岡市に2店舗、大分市に3店舗、別府市に1店舗と計8店舗を運営しています。農産物は生産者自らパック詰めし、生産者の名前も明記。不揃いな野菜もどんどん並べます。売上の80%が生産者に、20%が木の花ガルテンに入る仕組みです。
野菜の販売だけに留まらず、次はレストランを併設。地元の有機野菜を使った農家の家庭料理が1200円で食べ放題。土日の昼時は、入るのに1時間町という大人気だそうです。
http://www.oyama-nk.com/konohana-g/tenpo.html
3.北海道十勝「川西長いも」
1960年代に、北海道十勝で長いもの栽培が始まりました。長いもは1m以上の深さまで石が無い土地でないと、栽培には向きません。十勝地域はそういう土地柄ではなかったのですが、国の整備事業で栽培可能な土地になりました。その後長いも栽培は順調に伸び、作付け面積を拡大。ところが生産を増やしたところで今度は大豊作による価格の暴落。既に日本国内の長いもの需要は伸び悩んでいたのでした。
この危機を救ったのが、台湾への輸出でした。当時、台湾で薬膳ブームが起き、滋養強壮効果のある長いもが重宝され、特に大型の長いもが珍重されました。寒暖の差が大きい十勝では、実が白く粘りの強い大型の長いもが作れます。正に台湾の求める長いもが十勝にはあったのです。豆類、ジャガイモが10a(1反)辺り、売上が10万円。これに対して長いもは手間が掛かるものの、10a辺りの収入は70万円~80万円。十勝は長いもで、それも台湾への輸出で、危機を突破したのでした。
決して諦めないで、地域全体で新しい農業ビジネスを次々と展開していく。地方の農村が自力で生き残っていくには、これしかないと思います。
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