2012年2月6日(月)

減反田と飼料米の生産

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 日経ヴェリタスの記事に「アグフレーション(アグリカルチャー+インフレーション)」という造語が載っていました。新興国の経済力が増大し、食料も今まで以上に豊かになる。豊かになるとは、穀物、野菜の食事から、肉、魚をより食べると言うこと。肉を食べるには、飼料を牛、豚、鶏に食べさせる必要があるので、今まで以上に飼料需要が増大していく。という流れで、飼料となる穀物高が今後とも恒常的に続くと予想しています。

 日本の家畜の餌(飼料)は、90%近くが米国からの輸入穀物(トウモロコシが半分で、その他大豆油粕、その他穀類等)です。トウモロコシに限れば年間約1600万トンが輸入されています。この飼料の価格はいくらなのでしょうか?

 小麦、トウモロコシの米国での価格は、1ブッシェル辺り6ドル程度だったのが、最近は8ドルくらいまで値上がっています。1ブッシェルはどういう単位か調べると、元々は英国のヤード・ポンド法で、36.3リットル相当の量。これが現在では、その大きさに入る穀物の重さとして使われています。トウモロコシであれば25.4kgが1ブッシェル。小麦であれば14.5kgが1ブッシェルになります(1kgはいくらで統一したほうが、何ぼか分かりやすいと思いますが)。

 トウモロコシで1ブッシェル8ドル(約620円)とすると、620円÷25.4kg≒25円/kgとなります。日本の政府買い上げ米が、こしひかり一等米で12,000円/60kg(1俵)くらいなので、約200円/kg。従って、日本の食糧米の1/8の価格でしかありません。安いな~。

 これに米国からの船便代が、1トン辺り75ドル前後(約6000円ですので、1kgあたり6円のコスト。米国での飼料(トウモロコシ)買付け価格に、輸送コストを加えて31円/kg。農協から畜産農家に渡される時の飼料価格は、2011年10月時点で55,000円/トン(55円/kg)。結構高くなっているのは、国内物流費、保管料、手間賃が取られているのでしょうか(全農が儲けている気もしますが)。

 現在の日本の米作りで飼料米にするのでは、輸入飼料に対抗できないことはあきらかです。ちなみに牛肉生産をするには、肉の生産量の約11倍の穀物飼料が必要と言われています。安い輸入飼料を使ったとしても、牛肉1kgの生産コストは飼料代だけで53円/kg×11倍=580円/kgとなってしまいます。

 どうすれば、米を飼料として使うことができるか。すなわち米国産トウモロコシに太刀打ちするには、どのように米を作ったら良いか。

・  大規模で生産する(1戸あたり最低100ha以上)。

・  育苗して田植えする方法を止める。直播により、田植えのコストダウンを図る。

・  食料米では無いので、農薬、除草剤の量を減らす(虫に食われても構わない)。

・  美味しさは関係ないので、収穫量が高い米を育てる。長粒米でも構わない。

 1反(300坪、10a)辺りの通常の米収穫量は、平均500kg程度ですが、これを800kgまで増やす(不味いけど1反で1トン取れる品種もある)。75円/kgで売ったとすると、1反あたり75円/kg×800kg=6万円となります。

 食料米の政府買上価格は、60kgあたり12,000円程度(200円/kg)です。1反で500kgの生産量とすると、1反10万円の売上です。これくらいの差なら、規模のメリット、直播の導入、農薬・除草剤を使用しないことでコストダウンを図れば、飼料米を作る方が手残り(純収入)を増やすこともできそうです。

 さらに、飼料米に補助金を入れれば、作る動機にもなります。現在でも飼料米には補助金が1反あたり8万円のべらぼうな価格を出していますが、上手く機能していません。1ha程度の小規模農家にばら撒いているためです。大規模飼料米生産者だけに、3万円/反でも出せば敢えて飼料米を作る農家も沢山出るはずです。

 1600万トンのトウモロコシ(ほとんどが飼料用)の半分だけでも、国内産飼料米で賄えるか計算してみました。反収800kgの飼料米の栽培で、1haあたり8トンの収穫。800万トン÷8トン/ha=100万haの田んぼが必要です。これも現在の減反田(農水省表現では生産調整田)が総面積90万haであること、耕作放棄地50万haがあることを考えれば全然大丈夫な面積です。すなわち、やる気になれば輸入飼料の半分を飼料米で賄えるのです。

 飼料米のメリットは、輸入飼料に代わるだけでなく

・  肉質が良くなる。すなわち美味しい豚、鶏が食べられる(山形県酒田市の平田牧場は積極的に豚の餌として飼料米を使っている)

・  ワラを餌にできる

・  籾殻を貯蔵、出荷できる

と色々あるはずです。円が今後大暴落し輸入飼料が高騰することも否定できませんので、食糧だけは安心して食べられる仕組みの確保が望まれます。

追記1)飼料米の反収1トンというのは、育苗して田植えした場合なので、直播でこれくらい獲れるということではなさそうです。

追記2)「もみろまん」と言う飼料米は、1反あたりの収穫量が1000kg(1トン)獲れるそうです。その味は人間にとっては滅茶苦茶拙いそうですが、牛、豚は文句も言わず食べてくれるので問題はありません。

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