夏場の電力ピーク削減と省エネ対策

都市鑑定アドバイザリー（株） 不動産鑑定士　田中祥司

　東日本大震災直後の東京電力管内の電力供給は、当初３５００万ｋｗｈ（１時間当たりの供給量）程度で、これが徐々に増えて現在４３００万ｋｗｈ。夏場に向けて東電が頑張って積み増しし、５５００万ｋｗｈ程度の最大供給量と発表されています。これに対して、夏場の最大需要見込みが６０００万ｋｗｈから６５００万ｋｗｈ。絶対的に足りないので、企業、家庭の大幅な節電が求められています。
　それでは夏場の対策として、私たちにできることは何があるでしょうか。
①涼しい服装
　沖縄では、何となく暑苦しくなってくると、服装が「かりゆし」に変わっていきます。かりゆしは沖縄風アロハで、これがスーツに替わる正式な服装。男性だけでなく女性も着ます。シャツはズボンの中に入れると熱がこもるので、必ず外に出します。でも、沖縄で “夏はかりゆし”となったのは、昔からではなくここ２０年くらいのこと。かりゆしが正装と認知されたのは、２０００年に行われた沖縄サミットで、各国首脳が着用してからと言われています。
　東京だって亜熱帯化が進んでいるので、夏場はスーツをやめて、“シャツを外出しで着る”というスタイルに変えるべきでは。スーツ、ワイシャツ、ネクタイをやめたいというのは、多くの人がが望んでいることですし。外出しシャツにするだけで、エアコン温度３度上げても耐えられます。お上に従う日本人気質としては、まずは役所、銀行、大企業が率先して始めるべきでしょう。
②打ち水
　沖縄でガンガンに暑い日中、さっと雨が一降りすると、灼熱地獄から瞬間解放され、清涼感が漂います。この時にうちなー（沖縄県人）が言うのが、「いい雨が降りましたね」。そう、灼熱での雨は、涼しさをもたらす恵みの雨なのです。
　水が太陽の熱で暖められて蒸発する時には、周囲の熱を奪って蒸発していきます。周りの熱を奪うのだから、その分気温が下がることになります。これが気化熱で、水１ｇの蒸発につき約５８０ｃａｌ（０．５８ｋｃａｌ）の熱が奪われます。人間の発汗作用も、汗が蒸発することで体をクールダウンするということで、原理は一緒です。
　一般家庭では、風呂の水はそのまま流さないで、できるだけ家の周囲の庭、道路に撒く。事務所ビルでも周囲に散水する。幹線道路には、役所が簡易スプリンクラーで水を撒くのが良いのでは。幹線道路の分離帯に穴をあけた塩ビ管を這わせ、地下水を吸い上げて散水する。こんな工事、やる気になればすぐにできます。
③屋上でのミスト発生機と子供プール設置
　昨年ＴＢＳの赤坂サカスに行ったら、ミスト（霧）発生機を置いて、周囲の気温を下げる試みをしていました。丸ノ内線茗荷谷駅でも、地上部分のホームにミスト発生機をおいて、周囲の気温を下げる実験を一昨年からしています。１か所だけやってもあまり効果は期待できませんが、一定規模以上の建物には義務化すれば、相当の効果は期待できます。例えば延床面積３０００㎡以上の建物には、屋上にミスト発生機設置を義務付け、気温が３０度以上になると作動させるようにすれば良いでしょう。
　コンクリート系建物は、日昼の直射日光の熱を吸収してしまうので、夜の外気が下がっても建物の気温はなかなか下がりません。これを防ぐためには、外断熱が有効ですが、ほとんどは内断熱なので、日昼暖められた建物は、夜でも熱を持ち続けます。
　この対策として、屋上に水を貯めて断熱してしまうことが有効だと思います。でも現実的には、ビル屋上には空調室外機が一杯ですし、屋上防水も完璧でないので、プールを作ることはできません。ではどうするか。私のアイディアは、夏の間だけビニール製の子供プールを屋上の空いているスペースに並べることです。子供プールの水で屋上の断熱をすると同時に、蒸発する気化熱で周囲の温度を下げることができます。
　ネット通販で見ると、４．５㎡の子供ビニールプールが３８００円で売っています。ざっくり１㎡あたり８００円。屋上１００㎡に設置しても、８万円の投資で済みます。時折ビル管理者かボランティアが屋上に来て、水を貯めるようにすれば、難しい機械も不要です。１万か所のビルで、平均１００㎡の屋上プールを設置すれば、合計１００ｈａの池が生まれることになります。投資額たったの８億円で、建物の断熱を行うと同時に、水分蒸発時の気化熱で周囲の気温を下げることができます。
　まずは屋上面積の大きい学校、役所、公共施設、病院等で実施し、民間事務所ビルの協力を得れば、このくらいの面積はすぐに達成できるはずです。