2011年5月4日(水)
湯島聖堂、昌平坂学問所の歴史
JR御茶ノ水駅の秋葉原寄り出口を出て、聖橋を渡ると湯島聖堂があります。湯島聖堂には、江戸時代の幕府の大学的教育機関であった昌平坂学問所がありました。学問の基本は、孔子の教えの儒教です。現在の敷地は約4,300坪とちょっと大きいお寺程度ですが、江戸時代には1.6万坪の土地があり、現在の東京医科歯科大学キャンパスが昌平坂学問所の敷地となっていました。
湯島聖堂は、林羅山が上野忍が岡(今の上野公園内)に建てた私塾が発祥です。林羅山(1583年-1657年)は、江戸時代初期の朱子学派儒学者で、徳川家康のブレーンとして活躍。徳川幕府初期の土台作りに大きく関わり、様々な制度、儀礼などのルールを定めています。また家康亡き後も、秀忠、家光の先生役にもなった影響力の大きかった学者です。1632年(寛永9年)に幕府から学問所を与えられ、忍岡聖堂「先聖殿」を設立し儒学を教えました。
その後5代将軍綱吉の政策で、林家個人から幕府の学問所となります。1690年(元禄3年)、上野忍岡の廟殿と林家の家塾を現在の湯島に移しました。湯島には孔子廟を新たに造営、綱吉がこれを「大成殿」と改称し、それに付属する建物を含めて「聖堂」と呼ぶように改めました。これが現在の湯島聖堂の始まりです。
その約100年後の1797年(寛政9年)に、幕府直轄学校として「昌平坂学問所(通称「昌平校」)」が開設されます。「昌平」とは孔子が生まれた村の名前で、「孔子の諸説、儒学を教える学校」の名前とし、昌平が地名として使われました。昌平郷は現在の山東省曲阜(きょくふ)市あたりです。
学びに来ていたのは、元々は江戸在住の旗本・御家人の子息でしたが、後年は各藩の江戸詰めの藩士も入学が許可されました。長州藩の高杉晋作もこの学問所で学んでいます。
江戸から明治になり、昌平坂学問所は明治政府に引き継がれた後、1871年(明治4年)に閉鎖されました。元々が学問の地であったことから、明治の新時代を担う人材の育成機関として、東京師範学校(現在の筑波大学)、東京女子師範学校(現在のお茶の水女子大学)が建てられました。東京師範学校、東京女子師範学校が文京区茗荷谷駅周辺に移転した後は、東京医科歯科大学湯島キャンパス、同病院となりました。
湯島聖堂は1923年(大正12年)の関東大震災で、入徳門と水屋を残し、すべてを焼失してしまいます。その後、孔子祭の挙行、公開講座の開講、学術誌「斯文(しぶん)」の発行などを中心に活動を行っている斯文会(しぶんかい)が中心となり、聖堂復興斯成会を組織し全国から募金を募りました。そのお蔭で1935年(昭和10年)、伊東忠太氏の設計、大林組、松井組の施工で、現在の湯島聖堂が再建されました。
今はこじんまりしていますが、江戸時代は立派だった湯島聖堂と昌平坂学問所。お茶の水駅から直ぐなので、お時間あれば立ち寄ってみて下さい。
追記1)現在の外神田3丁目に千代田区立「昌平小学校」があります。また外堀通りが神田川を渡る「昌平橋」も、昌平坂学問所から名付けられています。御茶ノ水駅東口の「聖橋(ひじりばし)」は、湯島聖堂に渡る橋として名付けられています。
追記2)丸ノ内線茗荷谷駅そばにある「お茶の水女子大学」。何故、お茶の水の名前が付いているのか疑問に思っていましたが、前身の東京女子師範学校が御茶ノ水にあったからと知って安心できました。
追記3)現在上野にある東京国立博物館と国立科学博物館も、一時期は国立博物館として東京師範学校と一緒にこの地にありました。1930年(昭和5年)に上野公園内に移転しました。
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