2011年8月15日(月)
江戸の上水道と虎ノ門の溜池
徳川家康が豊臣秀吉に江戸に領地を移されたのが1590年。ほとんど田舎町に等しかった江戸の都市開発を進めるにあたって、何よりも最優先すべきものは水の確保でした。
家康は関東入国に先立ち、家臣の大久保藤五郎忠行(後に主水)に命じ、水道の開削を命じます。これが神田上水の始まりで、水源は武蔵野の井之頭池です。目白の椿山荘を下った神田川辺りに堰を設けて、上水と余水(吐水)に分けました。ここに行くと神田川の関口堰があったと碑があります(文京区関口の地名の由来)。
関口で分かれた上水は、小日向台の下を開渠で通し、小石川の水戸藩邸(今の小石川後楽園、東京ドーム)内を経て、水道橋で懸樋によって神田川を超え、その後は木樋、石樋で江戸市中に上水を供給しました。
もう一つの有名な上水道が玉川上水です。人口の益々の増加で飲料水不足が深刻になり、多摩川(羽村村)からの上水道が計画されました。実際の工事を請け負ったのは、庄右衛門・清右衛門兄弟(玉川兄弟)で、完成は1653年頃と言われています。その功績で当時は苗字を持つことのなかった農民の庄右衛門・清右衛門兄弟は、200石の石高が与えられ、苗字を持つことと帯刀を許されたのです。本郷の東京都水道歴史館に行くと、玉川兄弟のアニメの物語をビデオで流しています。
玉川上水は、羽村から四谷大木戸(新宿区内藤町)まで43kmを開削し、江戸市中に入ってから四谷で流れを二手に分けました。一方は麹町を経て江戸城内に、もう一方は赤坂を経て京橋以南の市街地に上水を供給しました。こうして江戸の街が誇る二大水道、神田上水と玉川上水が完成したのです。
そして、これとは別に江戸の街には有名な飲料水を貯めておく場所がありました。それが虎ノ門の“溜池”で、現在の溜池山王駅から虎ノ門駅一帯です。溜池は江戸城外濠の一部で、元々水の湧く所でした。大名の浅野幸長(当時和歌山藩、後に広島藩主)が江戸城防備の外堀の一環とするとともに、飲料用の上水ダムとして1606年に整備し作りました。
谷地形を利用して、6mはある立派な石積みのダムが建設され、巨大な溜池が出現しました。この溜池は清水谷(赤坂プリンスホテル辺り)に水源を持ち、長さが約1.4キロ、幅45メートルから190メートルもありました(今の不忍池以上の大きさ)。
溜池は、水質もよく、風景も美しく、浮世絵などによく描かれました。琵琶湖や淀川からわざわざ鯉や鮒を取り寄せて放したという話もあり、蓮を植えてその花を鑑賞し蓮根を採取したといいます。安藤広重の安政4年の作品・名所江戸百景の中にも「虎ノ門外あふひ坂」と言うのがあります。
後年はかなり水質が悪くなったり、上水道の整備で存在価値は下がったようですが、明治維新後の1898年に新宿の淀橋浄水場ができるまで、江戸町民、東京市民に貴重な水を送り続けたのでした。
追記1)前述の東京都水道歴史館に行くと、江戸の地下の水道システムが紹介されています。江戸の市街地地下には、木製の水道管(木樋:もくひ)が張り巡らされ、井戸水ではない水道水を庶民は飲んでいました。これが「神田川の産湯を使い」と言う江戸庶民の自慢の種だったのです。
江戸市中地下の木樋による上水道システム
地下に埋設されている木樋
追記2)太田道灌が江戸城を築いた頃(1457年)、江戸の住民は神田上水の水源となる井之頭池からの流水で、赤坂溜池の水を飲料水にしていたと書いてある本もあります。家康が来る前から住んでいる人もいますし、多少の水道インフラはあったのでしょう。
追記3)玉川上水の水質を守るために、次のような高札を立て規制し、守らない場合は処罰をすることになっていました。 ・ちり、あくた(ゴミ)を捨てないこと。 ・水浴びや洗濯をしないこと。 ・魚釣りをしないこと。 ・上水3間の下草を刈り取らないこと。また定期的に上水に溜まった土をさらい、そのさらった土が上水に流れ込まないように処置していたそうです。
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