2011年8月13日(土)
青梅街道、石灰ロード
江戸城大手門の壁が一部壊れていました。守衛さんに地震でやられたのですかと聞いてみると、やはり3月11日の東日本大震災時に壁の一部が壊れたそうです。表面の漆喰(しっくい)が剥がれて、その下地の土壁がところどころ見られます。「でもこうやって壊れたから、この壁は本物の漆喰壁とお客さんも初めて理解してくれます。」
江戸城大手門の漆喰白壁が東日本大震災で一部破損
漆喰壁の下は竹でできた木舞(こまい)と呼ばれる格子状の枠と土壁
漆喰という言い方は、中国広東省で石灰のことを「Suk-wui」と発音するので、江戸時代からそう呼ばれるようになりました。漆喰は、石灰(消石灰、正確には水酸化カルシウム)、砂、すさ(麻などの食物繊維質で、つなぎ、収縮防止のために使う)、乾燥のり(保水性、接着性を良くする)等に水と捏ねて作ります。防水用に菜種油を混ぜている物もあります。
江戸時代の建物は木造ですが、燃えづらくするために土壁が使われます。ただ土壁だけでは雨水に弱く、漆喰を塗って表面を保護します(5mm~10mmの厚さで塗る)。石灰の原料は石灰岩で、石灰鉱山より産出されます。石灰岩は、貝類等の石灰質の殻が堆積して地層化したものです。日本での自給率は100%と豊富で、純度が高いものが取れました。
徳川家康が江戸に来た時に、猛烈な勢いで江戸の都市建設が始まります。それに伴い、大量の建材が必要になり、城壁や防火壁用の石灰も大量に必要になります。江戸の周辺で石灰が大量に取れたのが青梅の成木地区でした(石灰が取れるということは青梅も大昔は海の底)。江戸の街を建設するために、青梅で取れる石灰を大量に運ぶ。そのために街道を整備する必要があり、こうして生まれたのが青梅街道です(1603年)。
成木地区では徳川家が来る前から石灰が製造されており、八王子城などの城壁にも使用されていたそうです。成木の石灰は「八王子白土焼」と命名され、厳重な警備のもと「御用石灰」として江戸へ輸送されました。その後暫くすると、陸運から水運(多摩川)で石灰岩を運ぶルートが主流になり、青梅街道の石灰ロードしての価値は衰退していきました。江戸中期には、多摩から江戸には石灰に代わって、野菜、木綿織、絹、織物、青梅縞等が大量に運ばれたそうです。
追記1)埼玉県の秩父も良質な石灰が取れる場所です。山口県小野田市(現・山陽小野田市)も石灰の名産地です。秩父からは秩父セメントが、小野田からは小野田セメントが産まれました。両社は、1994年に合併し秩父小野田セメントとなり、1998年に日本セメントを合併し太平洋セメントになりました。
追記2)石灰岩は900~1000度で3日~4日間、炭のように焼かれて消石灰になっていきます。不純物を取り除くために、塩を入れて焼く方法もあるようです。
追記3)以前、西新宿の甲州街道沿いでビルを売ろうとしているオーナーと話した時、「うちは五街道の甲州街道だから価値が高いんだよ。青梅街道なんかとは全然価値が違うよ」と説明を受けました。それほどかな?と思いながら、小さい優越感と言うのはこういう場面でも出てくるのだと勉強になりました。
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