2013年8月5日(月)

島根県のたたら製鉄と山林王・田部長右衛門氏

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

最近兄が銀座ミツバチの活動を通じて、島根県美郷(みさと)町の方々と交流をし、何度も島根県に行っています。先日聞いた話では、島根県が江戸時代まで誇った一大産業が「たたら製鉄」であると教えてもらいました。昔中学校の教科書で読んだような記憶があるものの、たたら製鉄が島根県(旧出雲、松江)にとってそんなに大切なものとは全く知りませんでした。

日立金属がたたら製鉄の説明をHPでしているので、その内容を参考にしながらまとめてみます。

古くから行われていたたたら吹きの技法は、粘土製の炉の中に木炭を入れ、点火後は鞴(ふいご)で風を炉内に送りながら木炭と砂鉄を交互に上から加え続け、炉内の燃焼反応による高温と炭素の還元力により砂鉄から酸素を奪う事で鋼を作ります(今の製鉄も同じですが、鉄に付いた酸素を炭素で奪うことで、この時大量に発生するのがCO2)。たたら製鉄は鉄の原料として砂鉄を用い、木炭の燃焼熱によって砂鉄を還元し、鉄を得る方法です。たたら製鉄には、1)砂鉄からいきなり鋼を作るケラ押し法(直接製鉄法)、2)ズク(銑鉄)を作ることを目的とするズク押し法の2つの方法があります。江戸時代までは鋼や銑鉄の生産量のなんと8割を島根県が占めていたそうで、日本の一大重工業が島根にあったのです。但し刀剣などの完成品は島根では作らず、最終製品は各地で作られました(刀までの武器まで独占させてしまうと危険な存在になるので)。

江戸時代中期に近世たたら製鉄法と呼ばれる手法が完成していますが、中央に高さ約1.1m、幅約1m、長さ約3mの炉があり、その両側に風を送る鞴(ふいご)があります。たたら作業の技術責任者を村下(むらげ)と言い、村下は連日連夜たたらの炎と、たたらの側壁下部に設けられた「ほど穴」から炉内の状況を観察しながら、砂鉄や木炭の装入や鞴を踏む速度を細かく指示します。

鉄を作るのに重要な要素が、砂鉄の他に大量に使われる燃料用木炭です。大量にたたら製鉄を作れば、木炭用に大量の山の木が必要となり、山はあっという間に禿山になってしまいます。ローマ帝国末期にはお風呂に使う燃料用木材を取り過ぎて、ローマ帝国周辺の森林が消失してしまったと言う故事もあるくらいです。

大切な森林資産が禿山にならないように、30年単位で順送りに伐採し、計画的に植林し、定期的に間伐を行っていく。これらを正確に行うよう島根では算術が発展したと言われています。この山を広大に所有し、たたら製鉄に必要なエネルギーを牛耳っていたのが日本最大の山林王と言われた田部(たなべ)家です。田部家の江戸時代の黄金期には山林25,000ヘクタールをもち、田地が1000ヘクタール、小作1000戸、牛馬1000頭。島根県飯石郡はその大部分が田部家の領地だったそうです。山林25,000ヘクタールと言えば250k㎡ですので、幅が30kmとすれば奥行が8kmと言う広大さです。

田部家は“長右衛門”の名前を代々引き継ぎ、現在は25代目です。明治、大正、昭和になっても田部氏は資金力を持ち続けました。特に23代目は衆議院議員の後に島根県知事にもなり、中国地方の実力者かつ超有名人でした。酒屋の息子だった竹下登を陰で支え、中央政界に押し上げ、やがて総理大臣にまで育てたのも23代目の田部長右衛門氏。竹下昇の秘書からやがて参議院の実力者として君臨した青木幹雄氏も、元々は23代目の秘書を勤めていました。司馬遼太郎は「街道をゆく7巻」で23代目・田部長右衛門氏を「出雲飯石(いいし)郡吉田村は、地図の上では虫眼鏡で見てやっとわかる程度の地名にすぎないが、この村に、中国山脈のほとんどを所有しているといわれる大山林地主の田部長右衛門家が存在することで、その方面の学者の世界では高い知名度を持っている」と紹介しています。

田部家は終戦後の農地改革で所有していた土地が山林だったために没収を免れ、1987年当時でも数千ヘクタールの山林を所有していたそうです。㈱田部は田部長右衛門氏の山林事業を法人化した企業で、島根県雲南市に本社があります。また広島市に支店を置き、ここがケンタッキーフライドチキン、ピザハット、サブウェイを運営しています。関連会社には西日本最大の合板メーカーの日新グループ(日新林業が中心企業)や新聞社の山陰中央新報もあります。この他に田部家のコレクションを集めた田部美術館もあります。

中央では知られていなくても、地元では超有名と言う方は他にも大勢いるのでしょう。

 

追記1)砂鉄の効率的採取法として「鉄穴(かんな)流し」という手法があります。砂鉄を含む山砂を渓流に流し、軽い砂は早く下流に流し、砂鉄は底に沈んで溜まる。これを繰り返すと次第に砂鉄の含有率が高くなる。このように比重で効率的に選別する手法です。ただ、大量の土砂を下流に流すので水を使う農民とはしばしば争いがあったそうです。

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