2017年3月18日(土)

ホステル(ドミトリー形式の低価格宿)のかなり厳しい状況

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

インバウンド客が多数宿泊するホテルを運営している経営者の方から、インバウンド顧客の動向、ホステル(ドミトリー形式の低価格宿)の厳しい状況等の貴重なお話を聞く機会がありました。

1.フェリーで訪れるインバンド客

日本政府観光局(JNTO)発表数値に、ホテル業界には何か違和感があった。2016年度は2400万人達成と言いながら、ホテル業界は宿泊者増加を実感できていない。宿泊者数が増えていない原因としては、民泊客の増加が一番だろう。

その他にフェリーで来るインバンド客の数え方に問題があることが分かった。最初に那覇港に訪れ、翌日は福岡港、3日目に神戸港に行った船があると、それぞれの寄港地で来日外国人として数える。上記例で言えば一人の外国人が3回日本を訪れたことになり、3000人の乗船であれば9000人カウントされることになる。全員船に宿泊するのでホテル業者には全く恩恵を与えない。爆買いも最近はしないから、寄港地に経済効果を与えていない。

2016年度だけでフェリーで立ち寄ったインバウンド数が8割増の200万人くらいでカウントされている。しかし、宿泊も食事代も伸びないから、フェリー客が増えてもあまり意味がない。

2.急激に増えたホステル(ドミトリー形式の低価格宿)の厳しい状況

本来低価格で宿泊できるホステル(2段ベッドのドミトリー形式、別名ではゲストハウス)に関し、新規参入者の間違った認識がある。訪日外国人の大半は、旅行初心者のアジア人であり、旅慣れた欧米人と違って旅行先で知らない人とワイワイ仲良くすることを望んでいない。「Youは何しに日本へ」の影響で欧米人が大勢来ているように勘違いしがちだが、欧米人インバウンド客の数は少ない。

LCC片道1万円でやってきて、2000円台で宿泊出来て安いからホステルに宿泊する。それなのにカフェだ、デザインだと金を掛け過ぎて、それを回収するために4500円の料金設定になってしまう。しかしその価格設定では宿泊者を集められず軒並み2000円前後まで下がっているのが今の現状。

その点、昔から低価格ホステル業を経営しているカオサン、サクラホテル等は初期投資を最小限に抑えた上手な経営をしている。カオサンに行くと不統一な家具がリビングに並んでいるが、廃業した喫茶店からタダで貰ってきて置いている。二段ベッドやちょっとした収納は手作りでコスト削減している。昔からやっているホステル業はこれが当たり前だった。

サンケイビルがUDSと組んで秋葉原、東日本橋で展開しているホステル「グリッズ」も概ね2000円くらいしか取れていない。1階にカフェを設け内装費で坪100万円を掛けてもこの結果。「いろり」を展開するアールプロジェクトも2000円台の価格まで下がっている。宿泊者を取るために朝食無料を付けるなど悪循環に陥っている。

ファーストキャビンも積極的展開をしているが、普通のホテルの価格が安くなり普通に泊まれるようになると、今までのような料金体系ではやっていけなくなる。個室ホテルに宿泊できなかったからお客が流れてきていたことにようやく気付いたのではないか。

京都の普通のホテルの稼働率は依然好調を保っている。しかしホステルだと1000円を切る価格帯の宿まで出てきた。

宿泊業をやったことがない不動産会社にホステル業を勧めたコンサルタントの収支計画は、ほとんど同じ人間が作ったのかと言うくらいによく似た甘い見通しばかり。4500円の単価が取れて、たった3人のスタッフで清掃ができるとなっている。しかし現実は人件費が当初予定の2倍以上かかり、宿泊料金が半値以下となっている。それでいて必要がないカフェを作ってしまう。お金が無くてホステルに宿泊している客が、1杯700円、800円出してカフェに来ると考えること自体が現実を見ていない。

ホステルに投資したファンド、不動産会社はこれから塗炭の苦しみが待っている。安易にホステルの運営を引き受けた運営会社がバンザイをして経営放棄する案件も出つつあり、ババ抜き合戦始まると予想される。

旅行サイトのエクスペディア、ブッキングドットコム等は通常手数料が12%。これを20%の手数料を払うことで自社ホテルをトップ近くに表示することができる。但しこれは麻薬で一度やったら抜け出せなくなる。ホステルでファンドが投資しているところは、稼働率を上げようと客室単価を下げ、フィーを20%支払っている。しかし業界全体が低価格から抜け出せないので赤字体質のまま。

現状言えることは、大部屋のホステルはできるだけ比率を下げ、個室タイプのホテルとして運営するのが一番リスクが少ない。ホテル業を取るためには一人当たり最低面積等が定められており、飲食業施設を儲けるなどハードルは高いが、結果的にはホテル業の方が収益が良い。

2000円を切って宿泊できるようになると、一気に危ない顧客が宿泊しにやってくる。薬のジャンキーや浮浪者的な人たち。宿泊業なので予約を取って来てしまうと断ることができない。自分たちのホテルでも鍵を掛けずに寝ていた男性スタッフが、外国人のゲイ顧客に必要に肉体を迫られたことも起きている。

3.インバウンド顧客の求めるもの

欧米人の求める日本の観光と、大半の顧客であるアジア人の求める観光は大きく違う。これを欧米人とアジア人で一緒くたにしている。欧米人は築地市場のマグロ競りや渋谷スクランブル交差点を見たい(見た後は全然大したことが無いとクレームを言ってくる)。Sumou Trainingを見るのも大好き。ただ傍若無人な観光客が勝手に土俵に載ったりした時間が相次ぎ、最近では県が浮出来る相撲部屋は1部屋だけになってしまった。

最近は下火になったが、歌舞伎町のロボットレストランに行きたいというような体験型が大好き。新宿ゴールデン街は今も人気が高い。SNSにアップして、俺はこんな変わった体験をしているのだと友達に自慢したい。旅行初心者のアジア人はまだそこまで行っていない。

近年のインバンド客の増加は圧倒的に中国、韓国、台湾、香港等のアジア人客の増加によるもの。円安になると途端に客が増加する。東京、大阪などに来る初来日者は一巡したかも知れない。2度目、3度目に来る顧客は都心に泊まらず、地方都市に宿泊する傾向にある。地方空港の外国人利用者は増加傾向にある。

旅行者の中でも、多額のお金を使える層と、できるだけお金を掛けない層と二極化してきている。それぞれの層毎にどういうやり方で喜んでもらうか、ターゲットを絞って考えるべき。高級なホステルを企画するような需要が無い所に資金投資しても仕方がない。

宿泊業でみれば、個室のホテルは依然強い需要があり今後とも堅調である。インバウンド客でみれば、ツインタイプのホテルは圧倒的に強い。

今は旅行初心者が日本に来ているブーム状態なのではと言う不安感が強くある。ブームが去った後にどれだけインバウンド客が来てくれるか非常に心配。30年前、40年前に旅行初心者だった日本人が退去してハワイ、グアムに行ったことを思い出して欲しい。一巡するとグアム、サイパンには日本人観光客が行かなくなってしまった。日本に本当の観光の魅力がないとこうなる恐れは多分にある。

また、ホテル経営に詳しい方からは、下記の意見もありました。

・今後多数のホテルが開業する大阪ホテルマーケットは非常に厳しい状態になる。以前のような低価格の客室料金に戻ることも可能性として無くはない。

・日本のホテルマーケットは、日本人顧客が今でも8割以上占めているので、今後とも日本人を大切にする経営を目指している会社が多い。APAホテルも南京事件に絡む書籍で中国政府からバッシングを受けているが、日本人顧客からは屈しない態度が支持を受けており以前好調を保っている。いざとなれば5000円の宿泊料金でも利益を出せるので非常に強い経営をしている。

・外資系傘下のホテルファンドでは開発絡みの案件には非常に慎重姿勢になっている。当分開発絡みの土地取得は見合わせる雰囲気。

・都内の不動産会社で積極的にホテル用地を仕入れていた会社のホテル建設がなかなか始まらないようだ。8か所、9か所仕入れて1か所くらいしか建築が始まっていない。出口のファンドが慎重姿勢を示し始めたということもあるが、運営してくれるホテルオペレーターが見つからないと言うことが大きい。昨年と違って固定賃料で借りて良いとなかなか言ってこない。経営成績はオーナーが全てリスクを被るマネジメント契約(MC)なら運営しても良いと言う提案が多くなってきた。MCで売上の2%を貰うと言う内容だが、これなら運営者にリスクはない。リスクはあるのはオーナー側だけだ。

昨年まで奪うように動いていたホテル用地ですが、昨年暮れぐらいから大分様相が変わってしまいました。低金利、長期でファイナンスを引っ張っているところは良いでしょうけど、ノンバンク系から借りてホテル事業をしている会社は少し危険になりそうです。

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