2010年8月24日(火)

4-3 耐震基準、PML値、IS値

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 日本の建築基準法は昭和25年に施行されましたが、その後大きな地震の被害が起こるたびに、建物の耐震基準を高めていきました。ここで耐震基準とは、建築物や土木構造物の設計にあたり、建物・構造物が最低限度の耐震能力を持っていることを保証し、建築を許可する基準です。地震の起きた年と、その後の耐震基準の変更は下記のような流れです。

・1950年11月 建築基準法施行(旧耐震)。具体的な耐震基準は建築基準法施行令に規定。  許容応力度設計における地震力を水平震度の0.1から0.2に引き上げた。

・1971年6月  建築基準法施行令改正

・1968年  十勝沖地震の被害を踏まえ、RC造の帯筋の基準を強化。

・1981年6月  建築基準法施行令改正(新耐震)。 一次設計、二次設計の概念が導入。

・2000年6月  建築基準法及び同施行令改正。1995年の阪神淡路大震災の被害を踏まえ、性能規定の概念が導入され、構造計算法として従来の許容応力度等計算に加え、限界耐力計算法が認められる。 

 不動産業界で一番大きな目安となっているのが、その当該建築物が1981年以降の耐震基準(新耐震)かそれ以前の耐震基準(旧耐震)のどちらに準拠しているかというところです。 新耐震の特徴(新耐震基準の設定された目標とも言えます)を簡単に述べると、 

・中規模程度の地震(震度5程度)に対しては殆ど建物の損傷を生じさせない。

・大規模の地震である震度6超の地震に対しては、建物の外壁の損傷等の損害は生じたとしても、この建物そのものの倒壊を避ける事により人命の安全を守る。

・構造設計上は、これまでの旧耐震の手法である使用材料そのものの強度の確認に加え、建物全体の設計上のバランスチェックを行い、地震の横揺れに対する建物の耐力を検討。

(阪神淡路大地震において、1階に壁のないピロティ形式のマンションが多く倒壊した例がありました。これ等は部分的な強度や材料の強度は満たしていたとしても、その建物全体の構造設計上のバランスが悪くて、強い横揺れや直下型の縦揺れに弱かったものと推測されます)

 戸建て住宅でもそうですが、現在は構造体の中でも特に壁の持つ耐力が重視された設計手法となっています。つまり急激に襲う地震力を建物全体でバランス良く逃がしてやろうという事です。

 また、その基準に準拠しているかは、実際の建築確認申請を出す時点での耐震基準に従うので、建物竣工日だけでは新耐震かどうかは分かりません。必ず建築確認申請の日付が、1981年(昭和56年)6月以降かどうか確認する必要があります。例え1983年(昭和58年)竣工のビルでも、着工まで時間が掛かり工期の長かった案件は旧耐震の可能性もあります。専門の業者(大手設計事務所、大手ゼネコン等)に設計図面の確認や実際の建築物を確認してもらう事も時には必要でしょう(いわゆるエンジニアリング・レポート=ERです)。 

 2000年頃から始まった不動産の証券化では、ファイナンスはノンリコースローンにより調達されます。ノンリコースローンの貸し手(レンダー)は必ず建物の耐震基準が新耐震かどうか確認しますし、旧耐震のビルには原則融資をしないレンダーもいます。また、レンダーは同時にPML値がどうなっているかをも確認します。

 PML値とは、地震による予想最大損失額(Probable Maximum Loss)のことですが、元々米国の保険会社で考え出された概念です。定義は、建物の使用期間中で予想される最大規模の地震(再現期間475年相当=50年間で10%を超える確率)に対して予想される最大の物的損失額(90%非超過確率といいます)の、建物再調達価格に対する割合を言います。PML値が一定以上(通常は15%~20%)の場合には、投資リスクを軽減するために投資家自らが地震保険を付保(実務上はレンダーが地震保険付保を要求することが多い)し、投資対象から除外するなどの判断を行っています。

 PMLの計算は、構造計算を行える設計事務所等が中心になって算出していますが、各社により手法・計算方法が異なっており、統一基準がありません。このため、算出会社ごとに異なった数値が出てきてしまいます。この弊害を避けるために、最近ではIS値による耐震性能で判断する投資家・レンダーが増えてきました。Jリートの投資法人であれば、ほとんどがIS値を採用しているはずです。

 IS値(Seismic Index of Structure 構造耐震指標)とは、耐震診断により建物の耐震性を示す指標で、IS値 0.6以上は耐震性能を満たし震度6強程度の大地震に対して倒壊または崩壊の危険性が低いとされる。つまり現行基準法の耐震基準に準拠するものといえます。IS値 0.3未満は倒壊または崩壊の危険性が高いとされています(ちなみに文部科学省では、学校施設についてはIs値0.7以上の補強を求めています)。 上記の耐力度調査とは、老朽化した建物の構造耐力、経年による耐力低下、立地条件による影響の3点の項目を総合的に調査し、建物の老朽化を総合的に評価するものです。 

 最後に昭和56年以前に建てられたマンションや、ピロティのあるマンションは、まずは耐震診断をお勧めしますが、上述の様に一般的にIS値が0.6未満というのが耐震改修が必要と判断する目安とされています。

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