2011年6月13日(月)

下水汚泥はカーボンニュートラルのエネルギー

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 下水処理場で発生する残りかす(下水汚泥)は、貴重な資源になることを最近知りました。今までは邪魔者として埋立てに使われていたのが立派な資源になる、とても嬉しい話です。現在の有効利用の代表例は、下水汚泥を燃やした後に残る灰をセメントの原料に使っています(全量の60%くらいで、残りは埋立て)。
 下水汚泥の有効利用の一つに、汚泥を発酵させコンポスト化し、農業用堆肥として使うことも行われています。汚泥には、カリウム、リン、窒素が豊富に含まれています。ただ堆肥については土壌汚染物質である重金属(水銀、カドミウム等)が出てきたという事件もあり、あまり現状は農業用に普及していません。
 そして最近注目を浴びているもう一つの使い方が、石炭と同様に燃える資源として使うことです。下水汚泥には1kgあたり3000kcalの熱量があり、低品質石炭と同等程度です(豪州炭の通常品質は6700kcal)。
 乾かした下水汚泥を石炭火力発電所で石炭と混ぜて燃やし発電する(全体の2、3%混ぜるくらい)。既に自家発電用施設で環境的にも問題がないことを実証実験で完了し、今後本格的に使っていこうとしている企業もあります。汚泥焼却後の灰は、従来の石炭灰同様セメントメーカーがそのまま原料と使えます。
 自治体によって下水処理汚泥の処理は色々あるようですが、処理費を出して民間企業に処理を委託することも多くあります。この場合の処理コストは、1トンあたり1.5万から1.7万円。セメント会社が有料で引き取り、処理するケースが多いようです。
 そしてセメント企業が今考えていることは、自社で持つ自家発電所で燃える原料として使い、燃えた後は原料にするという、1粒で3回美味しい仕組みです(処理費をもらって、発電燃料にして、原料にする)。
 問題は水分たっぷりの汚泥をどう乾かすかです(通常は80%程度の水分含有率)。これには低温で蒸し上げて炭化する方法と、自然発酵(コンポスト)する方法があります。東京都は江東区にある東部スラッジプラントで、汚泥を炭化するプラントを平成19年より導入しています。汚泥炭化装置のプラントメーカーは、三菱重工、東芝、月島機械、メタウォーター(日本ガイシと富士電機の合弁)などが頑張っています。
 一方、自然発酵のコンポストを手掛けている会社は中小企業が多いようです。通常2か月くらいかかる発酵処理を、圧力を加え、水分調整を最適にすることで8日間で済ませる技術もあります。発酵の力は大したもので、70度くらいの高温になります(昔の肥溜めが発酵中は熱かったのと同じ原理)。
 無理無理燃やすことで乾かす大企業プラント方式と、自然発酵・低コスト・ローテク技術のどちらを選ぶか、これは結構面白い選択です。トータルの省エネルギー、低コストという視点からは、意外とローテクを選ぶ企業も出てきそうです。
 日本の石炭輸入量は、年間約1.9億トン。日本の年間下水汚泥発生量は230万トン。全量使えたとしても石炭輸入量の約1%でしかありませんが、今まで邪魔者だったのが、石炭の1%でも置き換えらればそれは良い話しです。
 さらに嬉しい話しは、下水汚泥は化石燃料ではありませんので、これを燃やしたとしてもカーボンニュートラル(CO2の吸収量と排出量が同一という考え方)と認められ、CO2排出量にはカウントする必要がありません。今までのように原発が使えなくなりそうな日本では、今後本気で下水汚泥をエネルギー化しようという動きが加速するのは間違いないでしょう。

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