2011年8月2日(火)

ステーキハンバーグ「けん」の戦略

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 ステーキハンバーグ&サラダバー「けん」の社長さんが出ている番組を1年くらい前に見ました。けんの店舗はすべて他社が撤退した後の店舗で、造作、備品はそのままで出店している。他社のレストランの内装、テーブル、椅子、厨房設備、照明設備、はたまた食器類までそのまま利用していると紹介されていました。

 理由はただ一つ、出店時の投資コストを抑えるため。けんを展開する株式会社エムグラントフードサービス井戸社長の話しによると

・通常のファミリーレストランを出店するには、約8000万円掛かる。厨房だけでも新しく作ると600万円から700万円掛かる。

・他社がどういう内装をしていたかは全く気にならない。お客さんは食事をしに来るのであって、内装を見に来るのではない。けんの内装がどういうものかなんてお客さんは覚えてくれないし、食べ始めれば内装なんて気にならない。テーブル、椅子はもちろんそのまま使う。鍋、お皿、スプーン、フォーク、ナイフだって使えるなら使ってしまう。

・撤退することを考えれば、設備、備品を廃棄するのにもお金が掛かる。その意味でスケルトン状態から数千万円の投資はとてもリスクがある。

 テレビで見た時は72店舗と言っていましたが、HPで確認すると現在200店を超えています。この1年で一段と拡大成長しています。

 新聞記事に出ている「けん」の戦略は、

・品数をできるだけ絞る。多メニュー化しているファミリーレストランとは一線を画し、ステーキ、ハンバーグ、サラダに集中させる。

・質より量を前面に打ち出す。サイゼリアは一品ごとの単価を低くしているが、けんは一品の単価は安くはないが、量が多いことでのお得感を出そうとしている。

・全メニューにサラダバー、カレー、ライス、スープの食べ放題を付けている。

この戦略により、食べ盛りの子供を持つファミリー層、若者たちに支持を受けているようです。

 HPで確認すると、現在の店舗数は北海道から沖縄まで204店舗。直営49店舗、FC155店舗となっています。コンビニやレストランチェーンの常識では、ある程度エリアを絞って集中出店する(ドミナント戦略)ことが王道です。何故なら食材の流通が効率的になり、人材教育もしやすいからです。これに反して、1県に1店舗という場所もたくさんある「けん」の出店戦略は、薄く全国にばらまいている感じです。

 今までの常識のドミナント戦略からすれば素人なんでしょうけど、消費者からすれば「この値段でこのボリューム」と驚きたい人もたくさんいると思います。近隣に同じレストランが何店舗かあるよりは、全国にばらまかれた方が希少性は高くなります。また、ステーキ、ハンバーグに絞ったメニューであれば、冷凍保存が効くので高い頻度の配送は不要となります(ドミナント化する必要性も薄れる)。

 お菓子のシャトレーゼさんに聞いた話では、甲府のお菓子工場(本社)から東北や中国地方まで毎日トラックで運送していると言っていましたので、保存が効く商品ならば結構日本全国送ることもできます。

 同じような既存ライバル店の撤退店舗を借り受け、低コストで猛烈な出店を行っているのが、カラオケ店の「まねきねこ」です。いつの間にか、カラオケ店数では日本一になっています。

 高級店ならいざ知らず、低価格のレストランでも馬鹿みたいに高い内装費を掛けてきたレストランチェーン店。見栄を捨てて初期投資を抑え、売上よりも利益と投資回収の短さをより重視する。結局最後に勝つのは、こういうお店ではないでしょうか。

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