2011年8月18日(木)

北前船で栄えた江戸後期の日本海側

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 東北新幹線で無料で見られる雑誌「トランヴェール」。だいぶ前ですが北前船(きたまえせん)の特集が掲載されていました。北前船の話は中学の日本史でちょこっとだけ習い、そんなものもあったのかとほとんど気にも留めませんでした。それが雑誌を読むにつれて、江戸時代のロマンを掻き立てる素晴らしい存在であったことを知りました。トランヴェールに書いてあった内容はうろ覚えですが、概ね以下のような内容です。

 

 ・江戸の最初の頃までは、船も構造が弱くまた帆も破れやすかったので、沖合まで船を出せなかった。従って日本海廻りで船を走らせるのも、陸地沿いを沿って運行し日数もかなり掛かった。

・暫くすると丈夫な帆が織れるようになり、特に冬場の強い風を受けても破れないようになった。この新しい帆を張って沖合まで船が出せるようになり、強い風を受けてスピードも上がった。大量の荷物を早い日数で運べる北前船は、日本海側の物流を飛躍的に高めた。

・そうは言いながらも、暴風雨で船が沈んでしまうことも多々あった。“板子一枚下は地獄”と呼ばれる危険な航海であることに変わりは無かった。北前船の航行が成功すれば大儲けし、逆に難破してしまうと財産を一気に失ってしまうリスキーな商売だった。

・北前船は大阪から下関を回って日本海沿いを北海道まで結ぶ。ただ、北海道と大阪を行き来しているだけではなく、途中の港に寄港しては積荷を売ったり、その土地で名産品を仕入れたりした。いわば動く商社・商店で、日本海側の名産品を関西、日本海側の余所の地域で流通させることに多大の貢献をした。

・名産品は、北海道のニシン、昆布の他に、織物、山形県の紅・藍、将棋の駒、名産の石など、多数に上った。

・北前船の船頭や乗り組員は、途中寄港した町で各地で仕入れた色々な話題を提供し、情報を伝える役目をした。港町の人達は、新しい話題を聞きたくて、北前船の船頭、乗組員を大歓迎した。大阪、京都の話題も日本海側の人達は、結構良く知っていた。

・北前船を通じて商売を行った日本海側の港町の商人は、莫大な利益を得て、各港に豪商を多数育てた。今も日本海側の港町に立派な建物や文化遺産が残っているのは、北前船の交易によるところが大きい。 

 あやふやな記憶を補うため、もう少しネットで北前船の情報をまとめてみました。

・1672年頃、河村瑞賢が幕府の命を受け、太平洋側の東廻り航路とともに、日本海側の西廻り航路を確立する。西廻り航路が北前船で、これが江戸時代の輸送革命を起こす。西廻り航路については、加賀藩が1639年に大阪まで蔵米を運んだのが始まりといわれている。

・江戸・大坂という大消費地と大集散地を結ぶ菱垣廻船や樽廻船が、スピードで勝負する「運賃積み」であった。これに対して北前船は各地の港に寄りながら、商品を買ったり売ったりしていた。

・北前船が運んだものは米だけでなく、酒田からは紅花、瀬戸内の塩や鳥取・島根の鉄も運んだ。特に蝦夷地(北海道)からは肥料用の魚粕(主にニシン)やアワビ・コンブなどを仕入れ、大阪に運んだ。蝦夷地から運ばれた昆布は西日本にダシの食文化を作った。

・北前船は3月下旬くらいに大阪を出発し、途中商売をしつつ瀬戸内・下関を経由し日本海に出て、5月下旬頃蝦夷地まで行く。蝦夷地で昆布やニシンを積み込み、そこから今度は逆ルートで7月上旬日本海を南下する。帰りも日本海の港で売り買いしながら、肥料用のニシンを瀬戸内で売りながら、11月頃大阪について全ての荷を売りさばく。これが一般的なパターン。

・太平洋側の菱垣廻船や樽廻船はスピードを重視したが、北前船は積載量を大きくするため、ずんぐりした形をしていた。 

 酒田では豪商の本間家が有名です。「西の堺、東の酒田」といわれるほど酒田は栄え、中心人物だった本間家の稼ぎ振りは殿様を凌ぐとまで言われ、「本間様には及びもないが、せめてなりたや殿様に」とうたわれたそうです。酒田からは北前船で米以外にも、出羽の紅花を出荷し、京友禅を鮮やかに染める原料として重宝されました。帰り荷には豪華な京のひな人形をはじめとする都の品々、京都の文化も酒田に運ばれました。

 今では小さな漁港の北海道の瀬越、京都丹後の橋立なども、北前船の時代には「日本一の富豪村」と言われたそうです。現代ではすっかり過疎になってしまった日本海側の港町が、江戸中期から明治の中頃までは物凄く輝いていたのです。明治の後半になると、大型の汽船、鉄道の進出で北前船は衰退してしまいます。でも、現在でも日本海側各地に当時の繁栄を偲ばせる物が多数残っています。

     淡路島「オノコロランド」で復元展示されていた北前船

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